清流に棲(す)む鮎は、日本を代表する川魚…
清流に棲(す)む鮎は、日本を代表する川魚。その香りのよさから、香魚(こうぎょ)の異名もある。岐阜県は日本一の鮎の生産量を誇り、平成27年には「清流長良川の鮎」が世界農業遺産に登録された。
その長良川で鵜(う)飼いを観(み)た。鵜飼いで獲(と)れた鮎は、鵜が活け締めにするから味が良いとされる。北大路魯山人も「鵜に呑ませた鮎には、鵜の歯形がついていて感じはよくないが、味に至っては、たしかに岐阜の人たちの自慢するとおりだ」と書いている(『魯山人味道』)。
長良川の鵜飼いは岐阜市と関市の2カ所あり、気流子が観たのは関市小瀬で、こちらの方が、より鄙びた風情があるとのこと。鵜飼いは日がとっぷり暮れてからでないと始まらない。それまで、清流に浮かべた屋形船で夕食の弁当を食べながら待つのである。
対岸の森からは、鳥の鳴き声が聞こえてくる。やがて日が暮れ、暗闇の中に船首にかがり火を掲げた鵜舟が現れ、鵜飼いが始まる。かがり火が映し出す中、鵜匠が綱を捌(さば)き、鵜たちが懸命に鮎を追う様は実に幻想的だ。
鵜飼いが終わって、鵜匠がその日の漁について話してくれた。まだシーズンが始まったばかりで鮎も大きくない、特に河口堰ができてからは魚も少なくなったという。
「まだ小さいですよ」と、そのことを訴えるように獲れた鮎を見せてくれたが、確かに10㌢あるかないか。そして胴体には、くっきりと鵜の嘴(くちばし)の痕が付いていた。<おもしろうてやがて悲しき鵜舟哉>芭蕉。