新年を新鮮な気持ちで出発しようと、東京…
新年を新鮮な気持ちで出発しようと、東京・銀座の観世能楽堂に足を運んだ。渋谷区松濤にあった能楽堂が、松坂屋の跡地にできた「GINZA SIX」の地下3階に移ってきたのは一昨年の4月。もともと観世流ゆかりの地らしいが、銀座のど真ん中で能を観(み)る気分も味わってみたかった。
演目は能「翁(おきな)」「鶴亀」、狂言「末広(すえひろがり)」、高砂など仕舞が8曲、最後に能「東北」というプログラム。20分の休憩を入れ5時間と長丁場だったが、もともとは「翁」ほか能5曲と狂言4曲を入れる「翁付五番立」というのが、江戸時代以来の正式な演じ方である。
「翁」は能というより、むしろ祈祷(きとう)、儀式の要素が強い。しかし面を付ける場面もあり、能の原型を示すもののようだ。
「とうとうたらり、たらりら」の謡も呪文のよう。隣の席の外国人が謡の本「神歌」を見ながら熱心に聞いていた。翁・千歳・三番叟(さんばそう)が天下泰平や国土安穏、五穀豊穣(ほうじょう)などを祈り、最後は鈴を振って舞う。
和泉式部がシテの「東北」が始まる前には、観客も2~3割減っていた。「翁」「鶴亀」と観て、これまた縁起のいい名前の「末広」を楽しんで、新しい年の幸を祈り、これで十分という観客も多かったのではないか。
終演後、銀座通りに出ると多くの外国人観光客でにぎわっていた。能楽堂で熱心に舞台を見詰める外国人、大通りの外国人観光客の群れ。大きく変わる日本の今を象徴するような風景だった。