「枝豆をおせばつぶてや口の中」(五十嵐播水)…
「枝豆をおせばつぶてや口の中」(五十嵐播水)。そろそろ秋といっても、なかなかその実感が持てない。最近は秋雨前線の影響で長雨が降り、朝夕は肌寒いほど。なぜ秋の到来を感じられないのかと思っていると、まだ秋の虫の鳴き声がしていないことに思い至った。
例年のこの時期だと、いくら暑い日でも夕暮れごろからそこここで虫が鳴き始める。家に帰っても、その声が闇の中から聞こえてくる。ああ、秋だなあと思う――これがないので秋とは感じられないと気付いた。
実際は、東京でも秋の虫が鳴いている地域はあるかもしれない。だが、気流子の住んでいる辺りはまだなのである。夏の終わりのような秋の初めのような不思議な気分である。
地域によって虫の生息状況が違うということもあるかもしれない。先日、JR中央線の国分寺駅近くを散策していると、都心ではほとんど聞かれなくなったセミの声がしきりにした。うるさいほどの鳴き声に、同じ東京なのに、ここは夏の盛りのようで不思議さを覚えた。
秋の味覚も、ナシやリンゴ、ブドウなどが出回り始めている。もちろん、ハウス栽培などで季節に関係なく流通しているが、やはり旬の果物や野菜のみずみずしさはうれしい。
夏によく食べられる枝豆は、俳句の歳時記では9月の季語となっている。塩ゆでの枝豆はビールに合うが、それだけでもうまい。冒頭の俳句はその情景が巧みに捉えられていて印象的だ。