「誤解を恐れずにいえば、戦争は、人類と…


 「誤解を恐れずにいえば、戦争は、人類という種の展開にとって、深部において常に重大な役割を果たしてきた」と文芸批評家の三浦雅士氏が書いている(『孤独の発明』講談社・2018年6月)。

 「誤解を恐れずにいえば」というのは「戦争が人類史にとって重大な役割を果たしてきた」という考え方が、今の日本の風潮と異なることを著者が明瞭に自覚しているためだ。

 「二度と戦争を繰り返してはならない」「戦争の記憶を後世に伝えていかなければならない」というのが現代の戦争観の支配的な流れだ。そんな中で「戦争の役割」に言及することは、戦争を肯定するにも等しいと攻撃されかねない。

 が、著者(1946年生)は「戦争は通常言われる以上に厳しいもの」と考える。平和を祈れば戦争が回避されるわけではなく、話し合いが行われれば戦争にならないわけでもない。

 話し合いも何もなく、いきなり侵略されて一つの民族が滅亡しても、その事実さえ伝わらないということは、人類史の中ではいくらでもあったはずだ。戦争は人間の奥深いところに根差しているという正当な認識がここでは示されている。

 「あの時ああしていれば……」と反省することは必要だ。だが、そうした「たら、れば」を超えたところで戦争が起こってしまうのがやっかいなところなのだが、そこまで踏み込んだ議論がなされることはめったにない。こうした視点を含んだ上での戦争論議に期待したい。