「出島なる町はおほかた変はれども歴史に…
「出島なる町はおほかた変はれども歴史に残る文明の灯(あかり)」(安高徹)。作者は長崎市にある松嶋稲荷神社の神官で「迯水(にげみず)」に所属する歌人だ。同神社は国道34号に面し、この地が昔の長崎街道の起点だったとされる。
神社を包んでいるのが稲荷山で「松風の里」と言われた。安高さんが東洋大学で師事したのは万葉学者、市村宏で、恩師は「迯水」を主宰し、門人たちに短歌だけでなく長歌の制作を推奨した。
短歌では歌い切れない素材を長歌の詩型で歌うことを勧めたのだ。安高さんはさらに國學院大學でも国文学者、西角井(にしつのい)正慶(まさよし)から万葉の長歌を学び、時間の許す限り口誦してノートに写した。その成果が長歌集『稲荷山』だ。
韻律から連想されるのは祝詞や祓(はら)い言葉だ。この歌集には「時は刻めど」「きのこ雲」「八月九日」など作者が体験した長崎原爆の体験が詠まれている。そのゆったりした韻律は平明で厳粛。
神前で出来事を回顧し平和を祈る。「きのこ雲」の結びの部分はこうだ。「我も又 生命を拾ふ 悲しくも 辛(から)き身命を 背負ふ人 像前に集ひ 朝夕(あさなゆふ) 平和を唱ふ 声も頻りに」。
6日に広島市で開かれた平和記念式典で、安倍晋三首相は「『核兵器のない世界』の実現に向けて、粘り強く努力を重ねていくこと。それは、わが国の使命です」と語った。その世界の実現は国境の壁、宗教の壁、人種の壁、思想の壁など、壁をなくしていく道と連動していると言えるだろう。