ミシュランの三ツ星に輝く東京・銀座の寿司店…
ミシュランの三ツ星に輝く東京・銀座の寿司店「すきやばし次郎」。安倍晋三首相がオバマ前米大統領と来店したことでも有名になった。里見真三著『すきやばし次郎 旬を握る』(文春文庫)は、当代一の寿司職人・小野二郎さんが、寿司ネタや自分の仕事について語り尽くした本だ。
その中に、こんな件(くだり)がある。「温かい季節の白身は、常磐(じょうばん)(福島)のマコガレイに限る」。福島県や茨城県沿岸で獲(と)れる魚は「常磐もの」と呼ばれ、東京・築地市場でも高く評価されてきた。
常磐沖は暖流(日本海流)と寒流(千島海流)がぶつかって潮目ができ、プランクトンの豊富な「宝の海」なのだ。だが、東京電力福島第1原発事故で汚染され、福島県の漁業は壊滅的打撃を受けた。今も沿岸は試験操業・販売に限定され、昨年の漁獲量は震災前の12・7%に留まった。
それでも自然の回復力によって、常磐の海は本来の宝の海に戻りつつある。3種から始まった試験操業対象魚はほぼ全種類となっている。常磐ものの代表、ヒラメやマアナゴ、そして小野さん推奨のマコガレイも復活したというから心強い。
水揚げされた魚は、まず福島県内で消費されてきたが、東京や埼玉県のスーパーなどでも販売が開始されている。獲れた魚はモニタリングによって、安全性は確認されている。
福島の漁業は復活のための重要ステージにきている。課題は流通体制の再構築と風評の克服だろう。常磐ものの誇りを持って頑張ってほしい。