「本来あるべき姿をとっているときの歴史は…
「本来あるべき姿をとっているときの歴史は、映画に似ているといえよう」。スペインの哲学者オルテガが「美術における視点について」の冒頭で語った言葉だ。美術館にはその進展の遺骸が保存されている。
1枚1枚は切り離されているが、ある順序に並べて眺めてみれば、中世後期のイタリアの画家、ジョットーから今日に至るまで、絵画の動きは始めと終わりを持った単純な動きだと論じた。
運動の原動力となったものは画家の視点だという。画家の目は初め物体を捉え、次いで近視法へ移り、遠視法へ移行し、視点はさらに後退して内部へ引きこもる。物体の後に感覚や観念を描くようになったともいう。
スペインのベラスケス(1599~1660)は西洋絵画の最重要人物の一人だが、印象派のマネによって発見された。マネは「画家中の画家」と賛嘆。国外では知られた存在ではなかったのだ。
オルテガの視点からすれば理由も納得できる。遠近に応じて取捨選択したベラスケスの主観的、マクロ的リアリズムは、感覚によって画面を平面化する印象派へと続いていくからだ。
「プラド美術館展―ベラスケスと絵画の栄光」が東京・上野の国立西洋美術館で開催中だ。彼の作品7点を軸に17世紀の傑作など70点を紹介。スペイン黄金時代の社会と宮廷の一端を見せてくれるが、作品の前で作者がどうして人物をそう描いたかを考えると謎は深まる。オルテガのベラスケス論も未完成のままだ。