「島々を巡る法座や日脚伸ぶ」(一田牛畝)…
「島々を巡る法座や日脚伸ぶ」(一田牛畝)。「日脚伸ぶ」というのは、夜が長く昼が短かった時期から毎日少しずつ昼が長くなっていくことを指す俳句の季語。かつて「世日俳壇」の選者だった故吉本忠之氏が、後世に残したい美しい日本語の一つに挙げていた。
この時期の季語は、春の兆しを示したものが少なくない。特に、早咲きの梅には「早梅」「寒梅」「探梅」などの季語がある。だが、梅が本格的に咲くのは2月中旬あたりから。稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』では「早梅」について「暖かな地方や南面の日溜りなどで、まだ春にならぬうちに咲き始めている梅をいう」とある。
日本列島は南北に延びているから、季節ごとの花も地域によって開花時期が違うのは当たり前。それでも、梅が花の中で一番先に咲き始める部類に入ることは間違いない。その意味で、梅の開花を待ち望むことは春の到来への期待と重なる。
そのことをよく表しているのが「むめ一輪一りんほどのあたゝかさ」という嵐雪(松尾芭蕉の高弟)の句。花びら一つ一つに春の暖かさが柔らかな風に乗ってやって来るようなイメージが浮かぶ。
梅の次は、もちろん桜の季節。気が早いようだが、そう思ってしまうのも「日脚伸ぶ」という言葉の効果かもしれない。
今年は暗い年になるか明るい年になるか分からないが、「日脚伸ぶ」のように、暗い戦争やテロが減少し、明るい平和が少しずつでも広がってほしい。