東京・板橋区は冒険家、植村直己が暮らして…


 東京・板橋区は冒険家、植村直己が暮らしていた所で、庶民の街の雰囲気が色濃い。遺族から1500点に及ぶ資料の寄贈を受け、区が設立したのが植村冒険館だ。

 何度も訪れているのだが、行くたびに初めて目にする資料が紹介され、新たな側面を知ることもしばしば。今は「地図を広げて」と題する企画展示が行われており、植村のマップコレクションを見ることができる(1月24日まで)。

 植村が1974年末から76年5月にかけ、犬ぞりでグリーンランド西海岸からカナダ北極海沿岸を経てアラスカに至る旅をした時の地図約10点と、行動中に撮影した写真類である。両者を照合することでより実感できる。

 地図は同じ場所でも100万分の1と30万分の1とを準備していた。全体と部分とを見ようとしたらしい。書き込みをしたり、ルートを赤鉛筆の線で示したりしている。興味を引いたのはその酷使の度合いだ。

 折り目が擦り切れて破れた箇所もあったが、案外保存状態が良く、大切に使っていたことが分かる。不必要なところを切り取り、何枚か張り合わせて作ったものもある。地図は磁石とセットで使用する。

 植村が亡くなったのは84年2月、マッキンリーでだが、捜索隊が山中で回収した装備の中に磁石があった。これが気になってならない。登頂の日、持参しなかったことを物語っているからだ。遭難の原因に方角が分からなくなったことがあるのではないかと想像するのだ。