「冬空につき出でてゐるもの多し」(上村勝一)…


 「冬空につき出でてゐるもの多し」(上村勝一)。本格的な冬の到来で、各地で雪の便りを聞くようになった。冬枯れの街を歩くと、所々に葉が落ちた樹木の枝が鋭く伸びているのが見える。

 厚着をしていた人が脱いでほっそりした体形があらわになったような印象。寒い冬は感覚的にも鋭く尖(とが)っているように思われる。空気も乾燥し濁ったものが無くなり、透明度が高い感じがする。

 散歩しながら、東京以上の寒さの北海道はどうだろうと考える。よく聞くのは道産子の「東京の方が寒い」という話だ。北海道では防寒対策がしっかりしているのだろう。

 今年もあとわずか。しかし師走という実感に乏しいのは、クリスマスという年の瀬のイベントが控えているからだ。クリスマスはキリスト教の祝祭だが、ここまで定着すると日本の祭りと言ってもいい。

 「雪道や降誕祭の窓明り」(杉田久女)。クリスマスは俳句の季語にもなっている。これが終わらないと、年末の物寂しいような気分にはならない。そして、その後はベートーベンの「第9」の演奏が恒例となっている。

 「墨の線一つ走りて冬の空」(高浜虚子)。1896年のきょう、スウェーデンの科学者、アルフレッド・ノーベルが亡くなった。毎年この日に首都のストックホルムでは、ノーベル賞授賞式が行われる。今年は日本人の受賞者がいなかったが、日本生まれの英国人作家、カズオ・イシグロ氏が文学賞に選ばれたので、少し嬉(うれ)しさがある。