日本を代表する唯一のアルゼンチンタンゴ歌手…
日本を代表する唯一のアルゼンチンタンゴ歌手、香坂優さんのライブコンサートを先日、都内で聴く機会があった。日本の歌とは異なったタンゴのストレートな愛情表現が印象的で、心躍らせたひとときだった。
ライブごとに新しい工夫を重ねる香坂さんだが、「タンゴには何でもできるんです」の一言に興味を膨らませると、登場したのがスタンダードジャズ風にアレンジされた曲「最後のコーヒー」。
バンドネオンの鈴木崇朗さんとピアノの佐藤美由紀さんが叙情的で優しいリズムを奏で、曲の構成に面白い変化を付けていた。タンゴの特徴は激しく、情熱的で、狂おしいような歌唱にある。
淡谷のり子師匠のもとでシャンソンを勉強していたら、「あなたはタンゴ」と言われて、アルゼンチンに研鑽(けんさん)の場を移した。単身留学して挫折に次ぐ挫折。そんな時出会ったのがタンゴ界の最高峰マリアーノ・モーレスだった。
「歌は一瞬一瞬の繋(つな)がりで出来ている、ひとつとしてその数珠をはずしてはいけない。また、その一瞬はその時にしかない、その一瞬前でも一瞬後でもない、その一瞬に命をかけるんだよ」。
著書『抱きしめてタンゴ』に記した思い出の言葉だ。香坂さんは歌詞の日本語訳を朗読して意味を観客に解説し、それから魂を込めて歌った。悲しい歌が多いのだが、思う存分表現することで明日の希望に変えてしまう。そんな力がタンゴにはある。