カマキリを詠んだ句は多い。「蟷螂の咀嚼の…


 カマキリを詠んだ句は多い。「蟷螂の咀嚼のつづく石の上」(鷹羽〈たかは〉狩行〈しゅぎょう〉)。肉食のカマキリが貪欲に餌を食べ続ける様子が活写されている。益虫とされるカマキリだが、この句の「蟷螂」は、日本風に「カマキリ」と読んでもよさそうだし、中国風に「とうろう」とすることも可能だ。

 俳句に登場する虫には傾向がある。セミ、トンボ、秋の虫が多い。これらは鳴く虫だが、鳴かないカマキリが多く詠まれるのは、あの印象的な姿のせいだろう。

 カブトムシはよく見られるが、クワガタムシは少ない。カミキリムシはほとんど詠まれない。チョウが題材になることは多いが、ガも少なくない。一部の昆虫愛好家の間で関心の高いオサムシ、マイマイカブリといった地を這(は)う肉食性昆虫は、俳句の世界では関心外のようだ。

 半面、昆虫ではない蛇が詠まれることは多い。嫌われているから俳句の題材にならないというわけでもなさそうだ。

 蛇は「長虫」と呼ばれる通り、広い意味で虫の一種とされてきた。そういえば、蜘蛛(くも)も昆虫ではないが「虫」だ。蛇にも蜘蛛にも「虫」という文字が含まれる。

 俳句のそれなりに長い歴史の中で、虫や昆虫に対する見方が形成されてきた。虫に限らず、他の動物や植物についても、俳句特有の傾向があるはずだ。話題を短歌に移せば、俳句とはまた違った光景が見えてくるかもしれない。人間の、周囲の自然への対し方の「妙」がそこにあることだけは確かだ。