ミステリーの女王、アガサ・クリスティーは…
ミステリーの女王、アガサ・クリスティーは、第2次大戦中も長編小説を年2回のペースで書き続けた。クリスティー自身の作家としての信条と力量があったことが第一だが、読者の側の需要も大きかった。
大戦中、ロンドンはドイツ軍の空襲を受け、上空では激しい空中戦が繰り返された。市民は地下鉄を利用した防空壕などに避難したが、そこには図書館があった。東秀紀氏の新著『アガサ・クリスティーの大英帝国』(筑摩選書)によると、クリスティーの小説は、そこで貸し出された本の中でもトップクラスだった。
戦時中であれば、戦意高揚を狙った軍国主義的なものが読まれるとは限らない。面白いミステリーは読み出すと夢中になって、一時的にも現実を忘れるのがいいのだろうか。いずれにしても戦争中でもミステリーを楽しむところに、英国人の懐の深さを感じる。
人間はずっと緊張し続けていることはできない。息抜きが必要だ。戦時下では英国人の好きな観劇も難しいが、読書であれば防空壕の中でもできる。中には普段より本をたくさん読んだという人がいたかもしれない。
東京では昨日から夏休みに入った学校が多い。昼間、電車の中で、親と出かける子供の姿をたくさん見かけた。手にゲーム機を持っているのがちょっと気になった。
お出かけの時くらいは家に置いていったらいいのに、と思わざるを得なかった。ゲーム機の代わりに本を持つのならもっといいのだけれど。