「萌え出づるものにやはらか春の土」(高木…
「萌え出づるものにやはらか春の土」(高木青巾)。春になると草木の芽吹いているのが目立つようになるが、空気や水にも春らしさが感じられるようになる。この時期の俳句の季語には「東風(こち)」「春めく」「水温む」「春の水」などがある。
特に、生きものを育む土の温度や色合いが変わってくる。季語に「春の土」があるのも、そうした大地の息吹を表現するためだろう。稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』には「農作、園芸に限らず、春になると土の凍がゆるみ、草木をはぐくむ感じがするようになる」とある。
土の状態は農作業にも深く関わる。特に春先は、秋の実りをもたらす作物の種まきの時期でもある。歳時記をひもとけば、種まきに関する季語が多い。「花種蒔く」「夕顔蒔く」「糸瓜(へちま)蒔く」「胡瓜(きゅうり)蒔く」「南瓜(かぼちゃ)蒔く」「茄子(なす)蒔く」「牛蒡(ごぼう)蒔く」などがある。
その意味でも、春は命が萌え、生長し、伸びゆく時期であることがよく分かる。卒業式や入学式がこの時期にあるのも、そうした春の姿にふさわしいからかもしれない。
この時期と切っても切れない花は桜であるが、不思議なのは卒業式にも入学式にも似合っていることである。別れの悲しみも出会いの喜びも、桜の花とともに美しい思い出となるのだろう。
かつて、大学に合格した時の電報は「サクラサク」で、落ちた時は「サクラチル」だった。気流子はその両方を経験しているが、その桜の咲く季節は間もなくである。