「日の匂ひ風の匂ひて野梅咲く」(中村芳子)…


 「日の匂ひ風の匂ひて野梅咲く」(中村芳子)。春をいち早く告げる花として知られるのは梅。奈良時代に中国から移植されたため、ハイカラな花としてもてはやされ、万葉集では花といえば梅を指すことが多い。

 当時、もちろん桜はあったが、貴族の宴会などで鑑賞されるのは海外の先進文化を象徴する梅の花だった。今では、そんな由来も忘れ去られるほど、日本の風土に根付いている。

 関東地方で春一番が吹いた日、紅梅が咲く公園で、風が砂を巻き上げ、枝に付いた梅の花をむしり取るように吹き付け、数枚の花びらが散る光景を見た。

 「天神によき絵馬かゝる梅の花」(深川正一郎)。学問の神様である菅原道真も梅の花を愛した。「東風(こち)吹かばにほひおこせよ梅の花主なしとて春な忘れそ」という和歌は、道真が大宰府に左遷される時、庭の梅の花との別れを惜しんで詠んだ歌である。

 後に庭の梅木が道真を追って大宰府に飛んできたという「飛梅伝説」を生んだ。その梅は門外不出だったが、東日本大震災で被災した福島市の県立福島高校へ2014年に5本の若木が贈られたことは小紙でも紹介した。

 同校の校章が梅の花をかたどっているという縁で実現した。梅は翌年の3月ごろに開花し、原発事故の影響で苦しむ福島の若い世代への励ましとなった。太宰府天満宮から道真の住んでいた京都を越え、福島の地まで1400㌔の旅をした。新しい「飛梅伝説」が始まったのである。