「小確幸」という言葉がある。日本語の辞書…


 「小確幸」という言葉がある。日本語の辞書にはないが、台湾では流行語として使われているそうだ。使い始めたのは作家の村上春樹さんで、造語。

 エッセー集『ランゲルハンス島の午後』の中に次の文章がある。「引出しの中にきちんと折ってくるくる丸められた綺麗なパンツが沢山詰まっているというのは人生における小さくはあるが確固とした幸せのひとつ(略して小確幸)」。

 専修大学生田校舎で「越境する村上春樹」と題する公開講演会が開かれ、台湾でブームが起きていることを紹介したのは淡江大学教授で村上春樹センター主任の曾秋桂女史。

 この作家が使ったのは個人生活でのことだが、台湾ではコーヒーショップや旅館、整形クリニックの名前ともなり、「小確幸経済理論」など社会と関連して使用されていると報告した。

 その背景として曾女史は、日本の植民地時代から現代に至るまで、日本語がどのように受容され、禁止され、開放されたかをたどる。そして多様な分野で日本語が用いられている事例を挙げた。

 もう一人の講師で文芸評論家の川村湊さんは、パリやシアトルの本屋で訳された作品が並んでいるのを見た経験を語り、翻訳の問題について指摘。彼の文章は訳しやすいには違いないが、翻訳不可能な言葉もあって「翻案」の重要性を説いた。『ノルウェイの森』は韓国で直訳では売れず、『喪失の時代』と訳して大ヒットしたのだ。