徳川将軍家の相続を題材にした落語に「紀州」…
徳川将軍家の相続を題材にした落語に「紀州」がある。7代将軍の夭逝で、次代の将軍候補に尾州公と紀州公が挙がり、2人は急遽、幕閣の評定の席に。
尾州公は見栄が働いて、一度断っても再度言葉が掛かるだろうと「余はその徳薄くしてその任にあたわず」と言った。一方、紀州公は同様の口上の後「…なれども、万民撫育の為、任官いたすべし」と答え、その瞬間、将軍職は尾州公を通り越し紀州公に決まって一件落着。
「紀州」は実話ではないようだ。しかし内心火花を散らしながら、いざとなれば「お家大事」で将軍を支え260年の平和の世を築いた徳川支配の勘所がうかがえる。
わが国は経済分野でも伝統的に同族の結束が強く、100年以上続くファミリー企業が欧米に比べかなり多い。1995年度の時点で上場企業の23・4%が同族支配だ。「和を以て貴しとなす」の経営方針が生産性の高さにつながるのも同族意識の強さと言える。
こうした日本の伝統を考え併せると、大塚家具の創業者会長と実の娘の社長が今回、経営権をめぐり対立し、人目も憚らず委任状争奪戦を展開したのは奇異に映った。社員、株主もあきれるばかり。
海外の複数の大手家具販売企業の国内進出でシェアを減らしたことが、内紛に油をそそぐ結果になった。今、グローバル化の荒波の中で、同族の紐帯強しといえど、その伝統を守り抜くのは決して容易でないことだけは分かった。