「暇あれば暇ある時に冬支度」(稲畑汀子)…


 「暇あれば暇ある時に冬支度」(稲畑汀子)。めっきり朝夕が寒くなって、暖を取る季節となった。物置や押し入れに仕舞っていた暖房器具を取り出し、ススを払いきれいに拭いて、スイッチを入れる。

 ブーンとうなって発熱する瞬間がちょっとドキドキする。この器具も使い始めてから数年たつが、もうそろそろ買い換えの時期かもしれない。これを買った頃の寒さを思い出す。手をかざしながら、また冬を迎えるという実感が身に迫ってくる。

 とはいえ、まだ雪が降るのには早く、風も木枯らしほど冷たくはない。紅葉もまだ本格化していず、公園の木々も緑が入り交じっている。ただ暑い日には夜もベンチに人がいたりするのだが、最近はほとんど見かけない。

 公園にたむろするノラネコもこの頃はあまり姿が見えない。人が通るたびに甘えていたネコだったが、どこかへ行ってしまったのか、少々寂しい気もする。

 暑ければ暑いで文句を言いたくなり、寒さがこたえれば、それもまた不満になってしまうのが人間の性(さが)。ちょうどいいのは春か秋の頃だが、いつまでも同じ季節が続いたのでは物足りない。暑い夏や寒い冬があってこその春や秋なのである。

 花もそれぞれ咲く季節が違うのが、自然の良さである。春は桜、夏はヒマワリやアサガオ、そして秋は菊の花など。街を歩いていると、どこからともなくキンモクセイの香りが漂ってくる。秋の名残のような気がして心に残る。