「シンデレラ物語」は日本でもよく読まれて…


 「シンデレラ物語」は日本でもよく読まれてきた童話。そのハイライトは、シンデレラが時間の約束を守らなかったために、魔法がとけて、美女からもとの娘に変わってしまうところだ。

 真夜中の12時を過ぎてはいけないと、厳しい注意を受けていた。経済史家で、先日亡くなった角山榮さんは、どうしてシンデレラは時を知ったのか、と疑問を抱き、時間と時計と社会について調べた。

 そして書き上げたのが『時計の社会史』(中公新書)。生活史と経済史をクロスさせて謎解きをし、新しい歴史像を描いた。同様の手法で茶をテーマにして書いた『茶の世界史』(同)はベストセラーになった。

 角山さんが京都大学で経済史を学んで魅了されたのは大塚史学。封建制から資本主義への移行の問題を国民経済の立場から論じていた。が、生物学者の今西錦司から受けた教えがあった。

 「学問はヘテロでないとあかん」。ヘテロとはヘテロドックスのこと。オーソドックスの反対で異端という意味の言葉だ。角山さんは今西がフィールドワークを重視したように英国でそれを実行し、資本主義は世界的な体制で成り立ったもの、と論証した。

 そうした観点から『茶の世界史』も『時計の社会史』も書かれた。一般向けの著作でジャーナリズムが大歓迎し、堺市博物館館長にも就任。「生きているなら社会に貢献したい」。これが研究生活の出発点だった。合掌。