「もの置けばそこに生れぬ秋の蔭」(高浜虚子)…
「もの置けばそこに生れぬ秋の蔭」(高浜虚子)。暑中見舞いを書こうと思いペンを執ったが、時期によっては暑中見舞いではなく残暑見舞いとなる。
この期間の区切りは諸説あるようだ。基本的には梅雨明けから8月の立秋までが暑中、それ以降8月末までが残暑見舞いになる。立秋は年によって7日だったり8日だったりする。
今年は7日になるが、こうした区分は旧暦によるものだ。新暦で生活のリズムを刻む現代人にとっては、理解しにくい感覚だろう。ただ、俳句の季語は、この旧暦の季節感に基づいている。
歳時記をひもとくと、8月の季語は「秋」の項目にくくられている。稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』(三省堂)では「三暑が過ぎると秋が来る。残暑の中にも秋風の感じられるころからやがて天高く、月よし、秋草よし、虫よし、そして晩秋の紅葉に至るまで、秋は清朗な一面ものさびしい季節である」などと記してある。
それで冒頭に虚子の句を引用したのだが、秋と言われてもピンとこない。連日最高気温が30度以上の酷暑の時期は「真夏」というのがまぎれもない実感だろう。新暦と旧暦のズレにとまどう次第だが、最近、この旧暦が見直されている。
自然とともに生活する時代に郷愁を感じるからだろうか。新暦に比べて、旧暦が日本の伝統文化やスローな生活スタイルを感じさせるからか。いずれにしても、暑中見舞いはお早めに。