海外に暫く滞在して日本に帰国したりすると、…


 海外に暫く滞在して日本に帰国したりすると、街の電柱や電線が妙に目障りに感じる。美しい街並みが残る欧州などから帰ってくると特にそうだ。暫くすると、前と同じようにそれほどではなくなるけれど、初めて日本を訪れた外国人観光客の場合は、どうだろう。決していい印象にはならないに違いない。

 今年の「観光白書」で政府は訪日外国人数2000万人を達成するため、2020年開催の東京五輪を活用する施策の着手を決めた。その一つに街の景観改善のため無電柱化を進めることも挙げられている。

 無電柱化による効果は大きいようだ。埼玉県川越市や三重県伊勢市などでは古い街並みの美しさが蘇り、観光客が急増している。これだけでなく、美しい街に住めるという恩恵もある。

 日本でも電線を地中化するなどの取り組みは少しずつ進められているが、都市の中心部や一部の観光地などに限られる。これを機に、もっと強力に推進すべきだ。

 ただ電柱が長い間、電気を送るために雨の日も風の日も立っていてくれたことを、忘れたくはない。草野心平に「デンシンバシラのうた」という詩がある。<白ちゃけて。唸るようにさびしくなったら。人じゃない。相棒になるのは。夜中の三時のデンシンバシラだ。>。

 時には孤独な魂の話し相手にもなってくれた電信柱である。退場を願うとしても感謝の念を持って送り出すべきだろう。