【上昇気流】あんこう鍋の季節


<鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる>。加藤楸邨の代表句を思い出すあんこう鍋の季節となった。「西のふぐ東のあんこう」と言われるくらい、あんこう鍋は関東地方を代表する鍋料理

その本場、茨城県の大洗漁港などでは、あんこうを吊(つる)し切りにするが、その情景を詠んだ句と言われる。あんこうは骨や眼球以外すべて食べることができる。吊し切りで「あんこうの七つ道具」とされる身、皮、胃袋、肝臓、卵巣、エラ、ヒレの各部位に分けられ鍋で煮られるのである

あんこう鍋 (Wikipediaより)

もっとも、「人間探究派」と言われる楸邨の句は、食い意地の張ったものではない。よく言われるのは「ぶちきらる」と受け身の表現となっていること。この句が詠まれた当時、病を得て療養生活を送っていた自分をあんこうに重ねたという解釈もある

評論家の山本健吉は「一種の諧謔味を湛えている」と評している。あんこうのグロテスクな姿からの連想か。しかし、グロテスクなものほどおいしいとも言われる

茨城県では県内で取れるあんこうを「茨城あんこう」とブランド化している。東京電力福島第1原発事故の影響で、福島・茨城の漁業は大きな被害を受けた。2年ほど前に行った都内の老舗あんこう鍋屋では青森県産のものを使っていた

しかし、今では豊洲市場の通販サイトを見ても、大洗加工のあんこう鍋セットが出ている。もっと生きのいいものであれば、やはり大洗あたりまで足を運ぶしかない。