現代人は自動車や電車などの交通手段がある…


 現代人は自動車や電車などの交通手段があるので、あまり歩くことはない。ただ、移動する手段がない場合は仕方なく歩く。

 道を歩いている人のほとんどは、駅やバス停に向かうか、近所のスーパーなどで買い物をする人である。そのほか、健康のためにジョギングや散歩をするケースなどがある。

 足腰が弱くなって杖(つえ)を突いて歩いている人もよく見掛ける。最近は新型コロナウイルス禍で、外出自粛のためにステイホームの巣ごもりが多くなった。

 電車や自動車などがなかった江戸時代、移動手段は徒歩だけだった。伊勢参りなどのブームもあって、旅が一般庶民に広がった時代。だが、それでも役所勤めの役人には長期の泊まりがけの旅をする時間も余裕もなかった。

 こうした中、日帰りの旅をしていた武士の記録が残っている。徳川家の御三卿の一つ、清水家に仕えた村尾嘉陵(かりょう)は、公務の合間を縫って比較的時間のある春と秋に江戸の近郊を散策した。その記録『江戸近郊道しるべ』(講談社学術文庫)に文化・文政・天保時代の旅の様子が記されている。

 自分のためだけではなく、知人や友人に見せるためか、メモや文章を詳細に書き残した。目的地に到着するまでの道筋も丹念に記録している。社寺のお参りや桜などの花の見物のために気軽に出掛けている。コロナ禍で「まん延防止」のために都道府県間の移動自粛が要請されている昨今、江戸人に倣って近所を散歩するのも悪くはない。