<春の岬(みさき)旅のをはりの鷗(かもめ)…


<春の岬(みさき)旅のをはりの鷗(かもめ)どり/浮きつつ遠くなりにけるかも>。三好達治の処女詩集『測量船』の巻頭詩「春の岬」である。この詩集には39篇(へん)が収められているが、測量船という詩はなく、かすかに連想させるのはこの巻頭詩くらいだ。

 三好はなぜ処女詩集に「測量船」の名を冠したのだろう。詩の海に乗り出すに当たって、水路を知るために海底地形を測量するような気持ちがあったのかもしれない。

 山口県下関市の三菱造船工場で建造された海上保安庁の大型測量船「光洋」が就役した。長さ103㍍、総トン数4000㌧で、マルチビーム測深機3台に加え、海底の地層の音波探査装置や泥などを採取する採泥器を搭載している。船の位置を保持する能力も増し、精密かつ効率的な海洋調査が可能となる。

 日本を取り巻く海域には多くの資源が眠っている。その光り輝く海、十分に解明されていない海に光を当てて調査を進める意味を込めて命名された。昨年1月に就航した同型の「平洋」などと共に4隻態勢で海洋調査が進められることになる。

 「光洋」は今後、日本海や東シナ海での海洋調査に当たる。近隣国との摩擦を抱える海だ。特に中国は昨年、沖ノ鳥島(東京都)周辺海域で日本政府に無断で海洋調査を行っている。

 わが国周辺の海域は、残念ながら三好の詩のようにのどかではない。「光洋」の調査活動は純粋に科学的なものだが、海洋権益を断固として守る意思表示でもある。