秋の味覚、秋刀魚の不漁が続いている。…


 秋の味覚、秋刀魚の不漁が続いている。スーパーで1尾400円ほどの値段がついているのに驚いたが、今年は9月半ばまでの漁獲量が、過去最低だった去年の2割程度というからどうしようもない。

 仕方なく、解凍した安いのを買って食べたが、やはり味が劣る。特に、ワタの苦みに力がない。

 佐藤春夫の有名な詩「秋刀魚の歌」には、友人・谷崎潤一郎の子供と思われる<愛うすき父を持ちし女の児>が<さんまの腸をくれむと言ふにあらずや>という詩句がある。やはり秋刀魚はワタが重要だ。

 この詩は、一人夕餉に秋刀魚を食べる男(佐藤)のわびしく切ない心情を歌ったものだ。切なさの原因は<あはれ、人に捨てられんとする人妻と/妻にそむかれたる男と……>とあるように、離婚した佐藤と谷崎から離縁されようとしている妻・千代との恋の悩みだ。

 「日本の詩歌16佐藤春夫」(中央公論社)では「さんまはもっともげすな魚」でおよそ恋愛詩には似つかわしくないが、それをあえて主題として用いたところに「詩人の我とわが傷心を自嘲するような、複雑な泣き笑いが感じられる」と解説している。「げすな魚」というのはあんまりだが、名解説である。

 冷たい海を好む秋刀魚が、海水温の上昇で日本近海に寄り付かなくなったことなどが原因というから、不漁は一時的なものではなさそうだ。秋刀魚が超高級魚となった時、この詩の微妙な味わいを果たして人々は理解できるだろうか。