東京・谷中の全生庵で毎年夏になると開かれる…


 東京・谷中の全生庵で毎年夏になると開かれるのが「幽霊画」展だ。付近は関東大震災の被害にも戦災にも耐えて残ってきた街で、昔のたたずまいが色濃く残されている。山岡鉄舟ゆかりの寺だ。

 幽霊画は「牡丹燈籠」で知られた落語家、三遊亭圓朝のコレクション。彼の墓がここにあり、8月11日の命日を中心に夏の期間だけ開かれる。円山応挙の「幽霊図」や鈴木誠一の「雪女図」など名作がそろっている。

 かつて取材に行った時、寺の人に作者らの幽霊体験について聞いたところ「すべて依頼主の注文によって描かれたようです」とのこと。一点だけ、ある人物の体験を聞いて絵にしたというのが谷文一の「燭台と幽霊」だ。

 その幽霊は有と無の間にいるようで、怖い。ところで歴史の中には、霊界で出会った存在を描いたという事例がある。有名なのは、比叡山延暦寺第5世座主・円珍(814~91)ゆかりの「国宝黄不動尊」。

 比叡山では病気や災厄から人々を守るため、厳しい密教修行が重視された。円珍の籠山5年目、25歳の年の冬、石の部屋で座禅をしていると、金色に輝く異相の人が現れ「私の姿を図画して拝みなさい」と告げる。

 名を金色不動明王といい、「私があなたを守る。早く修行を遂げて一切衆生の灯明となってください」と語ったという。その霊像を画師、空光に描いてもらってできたのが黄不動だ。比叡山では実際にあった出来事として伝承を尊んでいる。