「木曽路はすべて山の中である」と始まる…


 「木曽路はすべて山の中である」と始まる島崎藤村作『夜明け前』。幕末、維新の政治的動乱の中にあって、森林が日本国土の骨組みの中心にあり続けた様子が、よく分かる。

 木曽一帯は尾張藩が支配し、その厳重な管理下に置かれた。その中にあって住民は、大半の地域に自由に出入りして雑木を伐採し、薪炭の材料を集めることができた。森林は地元共同体が所有し管理するという総意があった。他地域も同様だった。

 ところが時代が下るにつれ、地元と縁のない個人や事業者の森林所有が増加。昭和45(1970)年ごろから輸入材が増えて材木の価格が低下したため山への投資が減った。林業が衰退し、森林の荒廃が目を覆わんばかりのところが出てきた。

 その傾向に歯止めをかけるべく今年4月、新法の「森林経営管理法」が施行された。森林を所有していても管理できない場合、その経営権を市町村に委ねてもらい、森林整備を図ろうという仕組み。いわば昔、長く続いた地元の「共同管理」を復活させようというものだ。

 委託されれば、市町村は伐採や間伐などの実際の整備を民間事業者らに再委託し、管理するようになるが、その費用は税金で賄う。この11月から埼玉県秩父市では、再委託する事業者の公募を始めた。新法に基づく全国初の事例だ。

 森林の荒廃は、台風で水害が深刻化する大きな原因だ。森林整備の新制度は、将来の社会生活を決する静かな大改革である。