北にもフィットネスセンター!


 2日は国連の仕事始めだったが、国連内は静かで、会議日程を映すモニターは空白だった。多くの職員はまだクリスマス休暇中だろう。記者室には当方一人だったので仕事を早めに切り上げてウィーン市内14区の北朝鮮大使館に向かった。

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平壌住宅街にある「フィットネスセンター」(駐オーストリアの北大使館写真掲示板から、2014年1月2日、撮影)

 金光燮大使(金正恩第1書記の義理の叔父)とは、大使が昨年10月、平壌からウィーンに帰任して以来、会っていない。だから、大使がウィーンに本当に戻ってきているかを確認するべきだろうと考えていた。なぜならば、張成沢元国防副委員長の処刑前後、張氏側近の召還が相次いでいる。駐スウェーデンの朴光哲大使が先月27日、北京を経由して北朝鮮に召還されたというニュースが届いたばかりだ。だから、金大使は大丈夫か、と心配だった。金大使の場合、張氏との関係は明らかではないのだ。

 北大使館には午後2時過ぎに到着した。大使館は静かだ。外からは人の気配は感じられない。「金大使は不在かな」と考え、歩き出した時、金大使の公用車が戻ってきた。昼食か公務で外出していたのかもしれない。

 当方は早速、大使の車に近づき新年の挨拶をした。「お元気でしたか」と聞くと、大使は「脊髄が悪くで治療を受けているよ」という、大使は数年前にも脊髄の治療のため一時、平壌に戻ったことがあったので、「帰国されるのですか」と聞くと、「ウィーンで治療を受けている」と答え、平壌に戻る考えは今のところないことを示唆した。幸い、金大使は平壌から帰国指令を受けていないようだ。

 当方が「大使は今年でウィーン駐在21年目になりますね」というと、そんなになるかね、といった表情をみせながら、大使は「とにかく、新年おめでとう」と車の窓を開けて手を差し出して握手を求めた。

 当方は大使には張氏処刑後の影響や政情について聞きたかったが、大使が答えないことは分かっていたのでそれ以上話さなかった。金大使の黒色のベンツ車はゆっくりと大使館の中庭に入り、大使館の正面戸が静かに閉まった。

 帰宅する前に北大使館前の写真掲示板をちらっと覗いた。すると非常に面白い写真があった。朝鮮中央通信(KCNA)が配信しているかは不明だが、平壌市の住居地域にある「フィットネスセンター」の写真だ。食糧不足で、国民は満足に食事できない国でモダンなフィトネスセンターがあるとは考えていなかった。早速、ポケットからデジタルを取り出して撮った。若い男女が体操している。ウィーンでも見られないほどモダンで洗練されたセンター、といった感じだ。

 金第1書記は政権就任後、綾羅人民遊園地の完成、平壌中央動物園の改修、そして世界的なスキー場建設を国家プロジェクトとして推進してきた。最近、江原道元山地区で馬息嶺スキー場が完成したというニュースが流れたばかりだ。そして今回のモダンなフィットネスセンターだ。金第1書記は国民生活とは直接関係がない遊戯用インフラの整備だけに貴重な資金を投入している、といった印象を受ける。肝心の国民経済の復興については、経済特区の設置以外の具体的な計画は聞かない。

(ウィーン在住)