北極星が見えない夜空


 子供の頃、夜空を見上げると、晴れた日には空いっぱいに星が輝いていた。特に夏の夜は7時すぎまで明るいので、ついつい遊びに夢中になって辺りが真っ暗になって夜空の星や天の川を見ながら家に帰ったことも多かった。家に帰っても夕食後に一服すると、テレビで野球中継は流れていたが、ほとんどの家が道路際に出した縁台に座って団扇(うちわ)をパタパタさせながら夕涼みをしているので、また近所を回って遊び仲間と遊んだことを覚えている。

 その頃に覚えたのが、夜空の中で一つだけじっと動かない北極星の見つけ方だ。北極星は2等星なので、ひしゃくの形の北斗七星やWの形のカシオペア座を先に見つけて、そこからあの距離を5倍して見つけるんだと教えてもらって、その通り探すとそこにそれらしき星があるので、何度も自分でやってみたものだ。

 東京の夜空にも冬にはカシオペア座がよく見える。しかし、三鷹と世田谷の境にあるわが家の近くでは周りが明るすぎて北極星はおろか、北斗七星もカシオペア座も見えない。春夏秋冬いつも北の空はぼんやり薄明るくてほとんど星は見えないのだ。近所で夜暗くまで遊んでいる子供は見掛けないが、部活や塾の帰りの生徒たちが夜空の下、家路を急ぐ姿はよく見る。その中の何人が「今日も○○座がよく見えるなあ」などと思っているだろうか。

 もちろん高山に登って1泊すれば、満天に輝く星と流れ星の多さに圧倒されて、自然の素晴らしさを実感する。しかし、それは非日常的な経験であって、都会の日常生活の中で自然の驚異に触れる機会は極めて少ない。それだけに、幼い頃に自然に触れさせてその素晴らしさや怖さを教える教育が必要だなあと痛感する。昔、夜空には星が輝いているのが当然だったなあと妻と話していて、まったく興味を示さない子供たちを見ながら、反省も込めてつくづくそう思う。(武)