「肌寒も残る暑さも身一つ」(高浜虚子)。…
英国は経験論哲学の生まれた国として知られる。フランシス・ベーコンがその祖といわれる。これは哲学の入門書に書いてある通りだが、その経験主義の伝統は現代の英国にも生きている 卑近な例だが、それを一番感じるのは、横断歩道での信号待ちの時。英国人は赤信号でも、周りの状況を見て安全と判断すれば、さっさと渡ってしまう。律義に信号待ちをするドイツ人とは対照的である。日頃のちょっとした行動も伝統や国民性と分かちがたく結びついている。
日本は昔から台風や地震の多い国で、災害に関しては経験豊富な民族といわれる。しかし、最近の異常気象は、かつての経験だけで判断しては危ない、ということを痛感させられるものばかりだ。最近よく聞く「これまでに経験したことのないような……」という言葉がそれを象徴している。
台風26号の大雨による土石流が伊豆大島に大変な惨事をもたらした。観測史上最大の雨量が、火山灰層の島を襲った。
近年の猛暑や強風、豪雨、竜巻の根本的な原因は、地球温暖化、特に海水温の上昇である。それがもたらす影響は、専門家の間ではさまざまに推測されているのだろうが、まだまだ一般の人々の行動に結びつくまでには至っていない。
推測より、経験に頼りたがるのが人間だ。しかし、地球温暖化による環境変化で、これまでの経験だけでは対処できない状況にあることを、われわれははっきりと知るべきだ。