本を「自炊」する


 最近、タブレットで電子本を読んでいる人を見掛ける。ITに疎い筆者は、夏休みが終わる頃、息子から「自炊しようかと思うんだけど、自炊の道具を買っていいか」と聞かれ、初めて「自炊」にはもう一つの意味があることを知った。

 タブレットユーザーの間では、紙の本を自前でパソコンに取り込み電子書籍媒体にする行為を「自炊」と呼ぶ。自炊の道具は、特殊な裁断機と高速スキャナー機と電子化するソフトの三つ。

 早速、息子は三つの道具を量販店で購入し、本の自炊作業に取り掛かった。その現場を初めて見たときは、ある種の文化ショックを覚えた。

 手順はまず本を30~50頁ほどに分割する。それを裁断機を使って背中の綴じ部分を5㍉ほどバサッと裁断する。1冊の本をバラバラの紙状態にし、高速スキャナーにかけ情報を取り込む。それを電子化ソフトを使ってパソコンに電子書籍として格納し完了となる。文庫本なら10分くらいの作業で完了する。この自炊後の紙綴じ本がネット上で売られているというから、さらに驚いた。

 古本ならばそれほど抵抗はないだろうが、本屋で買ったばかりの新品の本まで裁断する。本を作っている人に申し訳ないような気持ちになってくる。

 よく若者の活字離れといわれるが、本好きな人ほど「自炊」する傾向にあるようだ。なぜかと言えば、常時本を携帯していたいから。

 文化庁の「国語に関する世論調査」によると、電子書籍を利用する人は17・3%、20代30代では30%を超える。電子書籍市場は全体の8%ほどだが、2020年頃には電子が紙を超えると言われている。

 若い時期はタブレットで電子本を携帯するのがクールに思えるが、歳をとったとき書棚に本がないのも寂しいものだ。自分が生きた証しとして、やはり大事な本は紙で残しておきたい。(光)