歴史が語る「戦争」の役割


 2014年は第一次世界大戦勃発から100年目を迎えることもあって、欧米メディアでは新年号から特集を企画するところがある。独週刊誌シュピーゲルは英国考古学・歴史家のイアン・モリス教授(IanMorris)とのインタビュー記事を掲載していた。教授は「戦争によって人類は発展し、より平和な世界を築いてきた。戦争は生産的だ」と主張した著書「Krieg.Wozu ergutist」(原題「War!WhatisitGoodfor」)で注目されいる。

 「暴力(戦争)が人類の発展でどのような役割を果たしてきたか」が教授のメイン・テーマだ。石器時代から今日まで絶えず戦争が続けられてきたが、「歴史を長期的視点で判断すれば、戦争は人類をよりよく、豊かな世界へ導いてきた。そしてより大きな秩序を構築してきた」というのが教授の主張だ。

 教授は「初期石器時代から今日まで戦争は続けられてきたが、その回数は減少してきている。戦争という悪業が行われ、その中から良き事が芽生えてくる。第1次、第2次の世界大戦が起きた20世紀、戦争で1億人から2億人が犠牲となった。20世紀にはトータル、100億人の人間が生存していたと推定すると戦争による死亡率は1%から2%だ、一方、石器時代、人は互いに殺しあったが、その死亡率は10%から20%と計算される。すなわち、戦争による死亡率は石器時代が圧倒的に高く、20世紀は石器時代よリ紛争(戦争)で亡くなる死亡率は10分の1と減少している。人類は戦争を繰り返しながら、戦争の少ない、安定した世界を構築してきた。戦争は絶対悪というのは余りにも安易すぎる。歴史は、戦争がそれほど悪くないことを実証している」という。

 シュピーゲル記者が「社会学者ノルベルト・エリアス氏(Norbert Elias)はその著名な著書の中で『戦争は避けられないが、人類発展の原動力ではない」と記述していると反論すると、教授は「戦争は美しくないし、短期的には石器時代のような蛮行の世界に人類を引き戻すが、文明社会の構築のために必要悪のように感じる。紛争を交渉を通じて規制できれば快いが、人類が選んだ道は戦争だった。われわれは殺人者だ」という。

 人類が自主的な社会契約で秩序を構築する道ではなく、戦争に走りやすいのは「戦争が人類にとってルーツに起因するからだろう。社会契約云々は戦争後の選択肢となるだけだ」という。教授によれば、人類の歴史は「万人の万人に対する闘争」と主張した英哲学者トマス・ホッブズが正しいことを示している、というわけだ。

 欧州連合(EU)は今日、5億人を抱える共同体だ。「欧州は戦争というカードを最後まで切った。その結果、戦争のない欧州共同体を構築してきた。戦争という代価を払うことで、より大きな秩序を構築し、平和で安定した社会が生まれてきた」というわけだ。

 教授は「第2次世界大戦は欧州とアジアを荒廃させたが、その後、人類史上最も生産性の高い地域を生み出した。そして今日、平和で豊かな地域となっている」と主張する。

 教授の「戦争論」は興味深いが、「なぜ、戦争を通じて社会が発展し、よりよい社会が構築されてきたか」という問いには言及していない。それは歴史学者の領域ではないからだろう。

 最後に、その問いについて、聖書に基づく説明を紹介する。

 「人類の堕落後、悪が神の計画に先行してその勢力を拡大してきた。神は失った世界を回復するため、悪が構築した世界を破壊しながら善の版図を広げていった。だから人類の歴史では必然的に戦争が頻繁に生じてきた。換言すれば、人類の歴史は善悪闘争史ということになる」

(ウィーン在住)