グローバリズムと国家 国民主権を守るトランプ氏

《 記 者 の 視 点 》

 日本ではほとんど知られていないが、トランプ米政権のホワイトハウスで読まれている一冊の本がある。保守系シンクタンク、ハドソン研究所のジョン・フォンテ上級研究員が2011年に出版した『ソブリンティ・オア・サブミッション(主権か服従か)』である。グローバリズムから国家主権を守る重要性を説いたものだ。

 この本は、トランプ大統領の国連演説に大きな影響を与えたとされ、トランプ氏は国家主権を意味する「ソブリンティ」「ソブリン」という単語を一昨年の国連演説では21回、昨年は10回使っている。

 昨年、フォンテ氏にワシントンでインタビューした際、同書を贈呈された。450ページもある分厚い本で、「すべて読むのは骨が折れるな」と思ってしまった。だが、フォンテ氏によると、この本で言いたかったことは、2語で要約できるという。その2語とは「フー・ディサイズ?(誰が決めるのか)」だ。

 つまり、外交や通商、税制など国家の政策を決めるのは誰なのか。国民なのか、国際機関なのか。本の題名が示す通り、国家主権を守るか、国際機関に服従するか、どちらを選ぶのかと問うているのである。

 トランプ氏は、昨年の国連演説で「米国は米国民が統治する。グローバリズムのイデオロギーを拒否し、愛国主義の原則を信奉する」と宣言した。日本の大手メディアは、この演説を「グローバル化拒絶」(日本経済新聞)、「国際協調無視」(読売新聞)などと厳しく批判した。

 だが、トランプ氏はグローバル化や国際協調を否定するとは一言も言っていない。拒否すると宣言したのは、あくまでイデオロギーとしてのグローバリズムだ。

 では、グローバリズムのイデオロギーとは一体何か。それは、国家が主権の一部を国家の上位に立つ超国家機構に移譲し、その国際機構が政策決定や問題解決に当たる「グローバル・ガバナンス」を目指すという考え方だ。

 それぞれの国が国家のエゴを捨て、主権を放棄するのは、一見、崇高な理想に見える。だが、国際機構のエリート官僚たちは、選挙で選ばれるわけではない。民意を反映しない組織に主権を移譲して統治させるのは、明らかに非民主的である。トランプ氏は、グローバル・ガバナンスという非民主的な統治構造を拒否すると言ったのである。

 米合衆国憲法は「ウィー・ザ・ピープル(われら人民)」で始まるように、主権者は米国民であることを明確にしている。政府ではないのだ。ましてや国際機関では決してない。

 国連など国際機関に過度な幻想を抱く日本人は、国家主権の意識が薄い。日本の大手メディアが国連演説で聴衆の失笑を買ったトランプ氏を見下すような報道に終始していたのは、その表れだろう。だが、北方領土や竹島、尖閣諸島と日本の主権が他国に侵害される状況が続く中で、国家主権を断固守る決意を表明したトランプ氏を、われわれ日本人は嗤(わら)う資格があるのだろうか。

 編集委員 早川 俊行