「ぬきん出て夕焼けてゐる大根かな」(中田…
「ぬきん出て夕焼けてゐる大根かな」(中田みづほ)。秋の野菜のうちで、よくお目にかかるのがダイコン。煮ておでんにしても、漬物にしてもいい。そのままかじってもやや苦い風味が舌に刺激的である。
この庶民的なダイコンは、はるか昔から日本人に食べられていたようだ。稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』には「古名は『おほね』といい、春の七草では『すずしろ』といわれる。練馬大根、三浦大根のような長いものから聖護院大根のように丸いもの、桜島大根のような非常に大きいものまでいろいろある」とある。
その上、カブとそっくりなのもある。ダイコンもカブも同じアブラナ科である。葉の形や色などから区別する方法があるようだ。
だが、専門家の植物学者でさえ、外形からは判断が難しい場合があるので、その種で判断しているというほど。こうなるとお手上げだが、それぞれの特性を生かした料理があり、ことに聖護院カブは京都の名産「千枚漬け」に使われ有名だ。
俳句の歳時記では、ダイコンに関する風物詩が取り上げられている。「大根引」「大根洗ふ」「大根干す」「切干」「浅漬」など生き生きした情景が浮かんでくる。それだけダイコンというのは、日本人の食生活に密着していたのだろう。
「沢庵や家の掟の塩加減」(高浜虚子)。ダイコンで作るたくあんは、江戸時代の臨済宗の僧・沢庵が考案したと言われる。ダイコンはさまざまな食べ物に変化する野菜である。