「紫陽花の毬まだ青し降りつゞく」(松下古城)…
「紫陽花の毬まだ青し降りつゞく」(松下古城)。まだ梅雨入りはしていないが、アジサイの方が待ち切れないのか、花が咲いている株を見掛けるようになった。まだ薄緑の茎の先に花が薄青く咲いている。
中には薄いピンク色に染まった花もある。アジサイは「七変化」とも呼ばれているように時とともに色彩が変化する。稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』では「咲き始めは淡色で、時がうつるにつれて濃い碧紫色になり、花期の終りには赤みをおびてくる」とある。
この青や赤の色彩が本格的な梅雨入りとともに鮮やかに映えるのだから不思議。雨でかえって原色が目立つのである。
このアジサイの花を見ると、いやでもじめじめした梅雨が思い浮かぶ。長雨の季節は気分も落ち込みやすい。そこに気温や湿度の高さが加わり、蒸し暑さで不快感も増す。
「五月病」ならぬ「六月病」という言葉がある。これは新入社員が研修後に配置された職場で陥りやすい精神状態のことをいう。新しい環境で知らず知らずにストレスが溜(た)まり、それが6月ごろに表に噴き出すのである。
「風流のはじめや奥の田植うた」(芭蕉)。しかし、この季節は植物の生育には欠かせない。田植えが始まるのもこの時期。全国各地に田植えにまつわる歌がある。田植えは重労働でとても疲れるので、皆で歌を歌って励まし合ったのだろう。そこから風流が始まったことを芭蕉の慧眼(けいがん)は鋭く見抜いているのである。