FN躍進、仏政治のカギに パリ同時テロ後の地域圏議会選

 昨年11月13日に起きたパリ同時多発テロ後に行われたフランスの地域圏議会選挙では、国民戦線(FN)に大きな支持が集まった。テロの脅威の背後にある移民や高い失業率が挙げられる一方、フランス国民が自国の主権やアイデンティティーの弱体化を懸念する声も聞かれる。果たしてフランスはどのような方向に向かうのだろうか。(安部雅信)

既成政党、左右共闘で支持下降も

アイデンティティー弱体への懸念が要因

経済対策が重要に

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昨年12月13日、フランス北部エナンボモンで、地域圏議会選の票を投じる極右政党・国民戦線のルペン党首(EPA 時事)

 昨年11月のパリの同時多発テロの余韻が収まらない12月6日に行われたフランスの地域圏議会選挙の第1回投票で、FNは与野党の既成大政党を上回る得票率で、6地域圏でトップに立った。結果的には第2回投票で全13地域圏のうちのどこも過半数を制することはできなかったが、FNの支持拡大を見せ付けた選挙だった。

 マリーヌ・ルペン党首は第2回投票終了直後、「自分たちは最大政党だ」と語り、たとえどの地域圏も押さえられなかったとしても、単独政党としては最大政党という主張を行うことで、確実な躍進があったことを印象付けた。

 12月に行われた選挙は、地域圏の統合により数を減らしての初めての選挙だった。第1回投票でマリーヌ・ルペン党首が候補者リストの筆頭のノール地域圏と、同氏のめいであり、FN創立者ジャン=マリー・ルペン氏の孫で国民議会議員でもあるマリオン・マレシャル・ルペン氏(26)がリストの筆頭だったプロヴァンス・アルプ・コート・ダジュール地域圏では、FNの支持率は40%を超えた。

 特にフランス史上最年少の22歳の国民議会議員となったマリオン氏は、マスコミの注目度も圧倒的で、結果的には過半数を取れなかったにもかかわらず「勝者に屈辱を与える勝利」と語った。前回2010年の地域圏議会選挙から見ても、FNが確実な躍進を遂げたことは誰の目にも明白だった。

 第1回投票でFNは約28%で、共和党・中道派の約27%、与党・社会党の約23%の得票率を抑えてトップだった。しかし、第2回投票の結果、保守・共和党を中心とする右派連合が13地域圏のうち7地域圏で過半数を制し、与党・社会党を中心とする左派連合は5地域圏を取り、コルシカ島の地域政党が1地域圏を制した。

 この不自然な逆転劇の背景には、与野党の既成政党が、一斉にFN排除に動いたことがあり、特に得票率が低かった与党・社会党候補は、第2回投票で候補者リストを取り下げ、中道右派の共和党支持に回ったからだった。既成政党が票を取り合うことで、FNが過半数を制することを阻止した結果だった。

 昨年3月に行われた県議会選挙でも、FNは第1回投票では25・2%の票を獲得し、全政党で2位に付け、全国101の県のうち、第1回投票で第1党となったのは43県もあった。ところがこの時もFNは、最終的にはどの県議会でも過半数の議席を取ることはできなかった。既成政党の共闘があったからだった。

 フランスの選挙制度では、地域圏議会選挙は第1回投票で過半数を制する政党がない場合、1回目の投票で10%以上の得票率を得た政党が第2回決選投票に進むことができる。決選投票で首位になった政党は、まず25%の議席を得ることができ、残りの75%の議席を各政党の得票率に応じて配分する仕組みだ。

 結果的に連立を組む相手のいないFNは、反FNで既成政党が共闘してしまえば、過半数を制すことができない。県議会や地域圏議会を制すためには、第1回投票で過半数を取る必要があるが、既成政党にとっても難しいハードルなため、FNはさらに難しい。

 ただ、政治信条の異なる左右の共闘で過半数を制した与野党の既成大政党のダメージも大きい。特に候補者リストを取り下げ、共和党支持に回った社会党は支持者との亀裂など深刻なダメージを受ける結果となった。17年の大統領選にも影響を与える可能性が高い。

 14年に行われた市町村自治体選挙や欧州議会選挙でも、FNは躍進し、仏マスコミ各社は、「FNは弱小の極端な極右の政治信条を持つ政党から、政権を担える普通の政党に成長した」と評した。17年に行われる大統領選挙の事前世論調査で、ルペン党首が支持率でトップに立ったこともあり、昨年12月の世論調査でも17年の大統領選の最有力候補者とされている。

 FNは長年、移民排斥、民族主義、ファシズム政党、ポピュリズム政党というレッテルを張られてきた。ところが昨今の欧州における極右政党の台頭を、反移民、反EU、高失業率というくくりだけで説明することはできない状況にある。というのも失業率が低く、移民も多くない欧州連合(EU)加盟国でも、極右政党は台頭しているからだ。

 昨年、約100万人の難民がシリアやイラクなどから流入したとされる欧州だが、あからさまに難民受け入れ拒否を表明しているハンガリーやポーランドのような旧共産圏の東欧諸国でも、移民や失業問題は内政の中心テーマにはなっていない。

 EU加盟各国に広がる極右政党の台頭の最も核心的な理由は、移民排斥が第一義的ではなく、欧州の統合の進化、拡大により、国家の主権や国民のアイデンティティーの弱体化を懸念する声が高まっていることが挙げられる。

 フランスを例に取れば、リーマンショック以降、米国の金融資本主義への反発が強まっており、特に利潤追求のためだけの企業の統廃合や非人間的解雇が横行していることへの反発は強まる一方だ。それに対して打つ手を持たない既成政党に対して、国民感情の受け皿になっているのが極右政党という見方ができる。

 これまで支持率低迷を続けてきたオランド仏大統領が、同時テロ後、一気に支持率を上げたが、昨年1月のテロ後も同じ現象が起きた。そのため、専門家の間では、経済回復に打つ手がなければ、再び支持率は落ちていくと予想している。既成政党への政治不信が高まる中、政治的混乱は今年も深まりそうだ。