ノーベル賞受賞者の発表が近づくと、ここ数年…
ノーベル賞受賞者の発表が近づくと、ここ数年は毎年恒例のように、村上春樹氏が文学賞を受賞できるかどうかの話題が登場する。今回は残念だったが、今後のことは分からない。成否はともかく、来年も関心を集める可能性が高い。
村上氏が受賞できない理由は大方分かっている。一つは芸術性。芸術性の高い作品を書いた作家が受賞に有利のようなのだが、村上作品は世界中で多くの読者に読まれているため、大衆文学と見られてしまう。
もう一つは社会性。社会性は政治性と重なる。政治性を帯びたメッセージが含まれた作品の書き手が受賞することが多い。
逆に村上氏は、社会性や政治性を拒否するところから書き始めた作家だ。デビュー作『風の歌を聴け』(1979年)の中には「意味なんてない」との一文がある。社会性や政治性は意味そのものだ。
半面、ノーベル賞選考委員も、いつまでも同じメンバーであり続けるはずはない。近年の傾向が社会性・政治性重視だとしても、川端康成(1968年受賞)の作風を見れば、社会性も政治性も全くない。こうした傾向に戻る可能性も十分考えられる。
ノーベル文学賞は選考委員が誰で、いつどこで最終選考が行われたのかも分からない。ノーベル賞全ての分野で秘密主義は貫かれている。早い話、村上氏が最終候補に残ったかどうかも、本当のところは不明だ。そこは、50年後の情報公開を待つしかない。