韓国「5・24措置」から5年、岐路に立つ対北制裁
強硬派「北の悪い癖直せる」
懐柔派「関係改善へ柔軟に」
韓国が独自に実施している対北朝鮮制裁、いわゆる「5・24措置」が発動されてから丸5年が経過し、今後もこれを維持すべきだとする強硬論と関係改善に向け解除が妥当という柔軟論がぶつかっている。南北関係の行方を占う重要なカギになってきそうだ。(ソウル・上田勇実)
肥料支援・接触承認の動きも
哨戒艦沈没事件が発端
同措置は2010年3月に黄海に浮かぶ韓国・白翎島沖で発生した哨戒艦沈没事件を受け、当時の李明博政権がその対抗措置として同年5月24日から始めたものだ。
中身は、①北朝鮮船舶の韓国領海航行の全面禁止②南北間貿易の中断③韓国国民の訪朝不可④北朝鮮に対する新規投資の不可(開城工業団地は除外)⑤人道的レベルの対北支援事業の原則的保留――など。乳児など社会的弱者に対する人道支援と開城工業団地については制裁対象から外され た。
その年の11月には、近くの延坪島に対し北朝鮮が砲撃を加える事件が起き、李政権下では一貫して対北強硬政策が取られた。
北朝鮮は金正日総書記の死亡により三男・正恩氏が後継。朴槿恵政権発足1年目に休戦協定の白紙化を宣言したり、開城工業団地の現地採用従業員を撤収させるなど、韓国を揺さぶってきたが、朴政権は毅然(きぜん)とした態度で臨み、同措置も引き続き継承されてきたというのがこれまでの大まかな 経緯だ。
同措置の狙いは「挑発すれば韓国が支援に応じるはず」という誤った認識を北朝鮮側に持たせないところにある。北朝鮮側は一貫して不満を表明し、無条件の解除を迫ってきたが、韓国側は保守政権が続き、北朝鮮の悪い癖を直すにはこの方法が有効と判断してきた。
ところが、ここに来て冷え込んだ南北関係を何とかしなくては、という声も出始めている。背景には「のど元過ぎれば…」式の対北融和意識が韓国社会で頭をもたげてきたことが挙げられる。
世論調査機関リアル・メーターが先週実施した調査によると、「5・24措置」の解除と関連し最も多かったのは「哨戒艦撃沈事件を謝罪した後 に解除すべきだ」の34・2%だったが、「南北関係改善のためにまず先に解除すべきだ」も28・8%に達した。
融和意識には、国政選挙のない今年が朴政権にとって動きやすいことや拉致問題で交渉を続ける日朝に刺激されたことも影響を与えた可能性がある。「制裁5年」は一つの節目であり、改めて考え直すきっかけになる。
実は韓国はこの5年の間にも制裁違反にならない範囲内で、北朝鮮に対する経済協力を間接的に進めてきた。北朝鮮北東部の羅津とロシア極東地方のハサンを結ぶ鉄道の建設と港湾整備などの事業にポスコ(旧・浦項総合製鉄)など韓国企業コンソーシアムが参加するというものだ。ここには北朝鮮との関係をどこかで維持したいという思惑もあるとされる。
洪容杓統一相は最近、テレビ番組で「北朝鮮が対話に乗り出すなら、5・24措置など南北間の懸案について話し合うことができるという立場を北朝鮮に伝えた」と述べ、南北対話に意欲を示した。
統一省は4月、民間団体による対北肥料15万㌧支援を承認したが、これはコメ、トウモロコシなどの食糧とこれに準じる肥料の支援を禁止してきた同措置下では初めてのことだ。そのため一部では「措置解除の布石ではないか」との観測も出ている。
また同省は、2000年の南北共同宣言から15周年となる今月15日を南北共同で祝う行事を企画していた韓国民間団体の関係者が第三国で北朝鮮の関係者と接触することを承認した。こうした接触の承認も同措置発動後では初めてとなる。
今年の8月15日は韓半島にとり、日本植民地統治から解放されて70年であり、韓国ではさまざまな記念行事が予定されているが、南北関係の転機をつくりたいという趣旨のものもある。
これらの一連の動きは、南北関係が動きだす兆候と受け止められていて、対話推進派は「6月から8月にかけては南北関係改善のゴールデンタイム」と期待を膨らませている。
野党や左派系メディアなどは、南北関係の冷え込みは朴政権の「原則に執着した政策」のせいなどと批判して即刻解除を求めており、北朝鮮はこれに便乗して朴政権を圧迫してくる可能性もある。仮に同措置が解除された場合、北朝鮮は韓国女性客射殺事件でストップしたままの金剛山観光を再開させる次なる目標に向かって動きだすとみられる。