欧州議会選、反EU勢力伸長
移民増加、格差拡大の不満噴出
欧州議会選挙戦の結果、英国やフランスでは欧州連合(EU)統合化と移民増加に反対する右翼政党が躍進し、ギリシャ、スペイン、イタリアなどの南欧諸国でも反EUの極右や極左の政党が伸張した。EU各国でこれら大衆迎合政党が人気を得ている背景としては、欧州債務危機を契機にした格差社会の拡大、移民増加、偏狭なナショナリズムの台頭などがある。(ロンドン・行天慎二)
英仏、南欧諸国で顕著
ナショナリズムの兆候も
投票結果を欧州議会の会派別に見ると、総議席751のうち獲得議席の多い順に次の通りである。欧州人民党(EPP、中道右派)223議席(48減)、欧州社会・進歩連盟(中道左派)185議席(6減)、その他(極右など)109議席(80増)、欧州自由民主連盟(LIB、中道自由主義)55議席(30減)、緑の党・欧州自由連合(革新系、民族政党含む)47議席(8減)、欧州保守・改革党(EU懐疑派の中道右派、英保守党など)46議席(10減)、欧州左派(共産党など)46議席(11増)、自由民主の欧州(EFD、EU懐疑派の右派、英独立党など)40議席(11増)。
まず注目すべきことは、極右政党その他、欧州左派、それにEFDといった左右の反EU勢力が大幅に議席を増やしたのに対し、その他のEU擁護派や推進派の主要政党は軒並み議席を減らし、特にEPPとLIBが議席をかなり失ったことだ。反EU勢力は欧州議会全体の26%を占めるまでになっており、今後のEUの運営と行方に警告を投げ掛けている。反EU勢力は、特にフランスと英国、アイルランド、それにギリシャ、スペイン、イタリアなどの南欧諸国で伸張している。
債務危機に陥った南欧諸国やアイルランドは深刻な不況や失業に見舞われ、大衆が自国政府やEUの経済政策に不満を抱いて、反EUの極右政党と反資本主義の極左政党を支持したのは半ば当然だと言える。ただ、それらの抗議票はギリシャを除いて(ギリシャでは、21議席中、左派8議席、その他5議席で過半数を超える)まだ少数派だ。今回問題なのは、英国でEU離脱を掲げた英独立党(UKIP)、フランスで右派の国民戦線(FN)が最大の支持率を得て第1党に躍り出たことだ。
英国のUKIPは得票率27・49%で、主要政党である労働党の25・40%、保守党の23・93%を抑えて第1位となり、英国割り当て73議席中の24議席を占めた。UKIPはEUからの大量移民、EUによる英国の国内法侵害に反対しEU離脱を主張しているが、イングランドとウェールズの全域で支持を集めている。UKIPの本来の支持基盤は欧州懐疑派と言われる保守党右派層だが、今回は地方の労働者階級にまで浸透している。その背景としては、一般国民の経済的閉塞感が挙げられる。緊縮財政で各種福祉手当が削られ、病院や学校のサービスが低下する一方、欧州からの移民が増加して就業機会が奪われているとの不満がある。富が集中している首都ロンドンは例外ながら、UKIPは経済的恩恵があまり受けられない地方で経済格差に不満を抱く有権者をとらえている。
フランスのFNは得票率25%で、主要政党の国民運動連合(UMP、中道右派)の21%や社会党の14%を抑えて、同じく74議席中の24議席を占めた。FNは移民排斥、EUと単一通貨ユーロからの脱退などを掲げて、UMPが強いブリュターニュ地方などを除けばほぼフランス全土で支持されている。
FNも仏国民の経済的不安感に支えられているが、国粋主義的なナショナリズムに訴えて支持を得ている点でUKIPよりも急進的だ。治安悪化、移民増加、失業などの社会的経済的危機感だけでなく、グローバル市場経済化に背を向けてフランス中心の保護主義的経済を好む多くの保守的フランス人がFNを支持している故に問題がより深刻だ。
UKIPはEU離脱して米国など他の地域との自由貿易推進の点でFNとはたもとを分かつ。自由貿易や自由経済を尊重する英国やオランダなどでは今回極右政党はむしろ後退した。オランダ、それに自由市場経済で成功しているエストニアではむしろEU推進派のリベラルな中道自由主義政党が第1党になっている。
EU各国首脳は27日、緊急の非公式首脳会議を開催して反EU勢力が伸張したことを踏まえた今後の対応策を協議した。ファンロンパイEU大統領は、欧州金融危機による経済停滞が今日の混乱を招いているとして、経済成長、競争力強化、雇用創出などを優先事項とした戦略的議題をまとめた上で6月の定期首脳会議で協議すると述べた。
また、経済通貨同盟をさらに発展させるとともに、気候変動やエネルギー供給での共同歩調、不法移民や犯罪を防止する一方EU内での人の移動の自由確保など、統合化路線を継承発展させる方針を確認した。これに対して、英国のキャメロン首相は「ブリュッセルは大き過ぎるし、あまりに高圧的で干渉がましくなっている」と語り、EUの官僚主義の弊害を改めるべきだと主張した。
反EU勢力の伸長を単に一般大衆の社会的経済的不満に根差したものとみるか、それとももっと根本的にEU統合化に内在した構造的問題とみるかによって今後のEUの方向性が決定されることになるが、キャメロン首相はEUの根本的な構造的改革を望んでいる。