「金正恩」より嫌いな「安倍」
集団的自衛権の行使、半島展開に韓国が拒絶反応
本格的に動きだした日本の集団的自衛権行使に向けた憲法解釈変更。だが、一方で植民地支配など「過去」に引きずられる韓国や中国はこれに警戒感を募らせている。このうち韓国では自衛隊が北朝鮮で日本人拉致被害者の救出作戦に乗り出すことにも拒絶反応を示し、反日感情の根深さを改めて印象付けている。(ソウル・上田勇実)
「北も韓国領」と拉致被害者救出にくぎ
国防省報道官は19日の定例ブリーフィングで「集団的自衛権行使は韓国が要請しない限り決して韓半島ではあり得ないというのが韓国政府の一貫した立場」としながら「韓半島有事に自衛隊が介入するのは原則的に不可能」との立場を鮮明にした。半島有事にはあくまで米韓同盟で対応し、自衛隊に頼ることはないということだ。
自衛隊に旧日本軍の姿を重ねてしまう韓国としては当然かもしれないが、同報道官は北朝鮮での自衛隊展開にも拒絶反応を示した。
憲法解釈変更と関連した安保法制懇の報告書の中に「領域国の同意なしでも在外国民保護のため自衛権を発動できる例外的ケースがある」とあることについて、日本の一部マスコミが「自衛隊が日本人拉致被害者を救出できるようにするもの」と報じたが、報道官は「北朝鮮も韓国の領土であると憲法にある」と述べ、“韓国領である北朝鮮”での自衛隊展開にくぎを刺した。
韓国での自衛隊展開ならいざ知らず、少なくとも現段階では韓国の主権が及ばない北朝鮮での展開にも反発するとはどういうことか。しかも民間人が北朝鮮に多数拉致されたという同じ痛みを共有しているはずなのに――。
韓国にとって北朝鮮は現在も休戦ラインで敵対する「主敵」ではあるが、同じ民族であり憲法上は「自国領」。一方、日本は「見習うべき先進国」であり「民主主義と市場経済という共通の価値観を有する」が、「過去を反省しないけしからん国」でもある。合理的な発想より地縁・血縁のつながりを優先しがちな韓国人としては、日本への嫌悪感よりも北朝鮮に対する嫌悪感の方が若干薄いというのが実際のところだ。
韓国人の日本と北朝鮮に対するこうした意識は、最近の世論調査にも表れている。牙山政策研究院が3月、19歳以上の男女1000人を対象に実施した「国家および国家元首好感度」によると、日本は10点満点で2・27点にとどまり、北朝鮮の2・71点より低かった。
また安倍晋三首相は1・11点で、これまで最下位だった北朝鮮の金正恩第1書記の1・27点にも及ばず、昨年から定期的に行ってきた同調査で初めて金第1書記を下回った。ちなみにオバマ米大統領は6・19点、習近平中国国家主席は4・78点、プーチン・ロシア大統領は3・47点だった。
核、ミサイル、無人機、砲撃、サイバー攻撃など物理的、具体的な挑発で韓国を息つく暇もなく脅かす「キム・ジョンウン」よりも、歴史認識の違いが許せない「アベ」の方が嫌いということが浮き彫りになったわけだ。
韓国では、集団的自衛権の行使が半島での自衛隊展開という身近な具体例を想定することで反発がさらに強まった形だが、中には「米、EU、ASEAN、豪州、ロシアなど多くの国が日本の集団的自衛権行使を支持。わが国が自衛権行使そのものに反対すれば国際社会で得るものより失うものが多い」(韓国紙・東亜日報社説)という少数派ながら比較的冷静な主張も見られる。