移民差別感情、仏でじわり
最新の調査報告で外国人滞在者や移民の増加が改めて確認されたフランスでは、国民の不安が高まっている。22日から始まる欧州議会選挙では右派政党の伸長が予想され、3月の統一地方選挙に続く右派・国民戦線(FN)の躍進が予想される。移民に寛容な左派政権に対して国民の不満が高まる中、4月に仏首相に就任したバルス氏の手腕が問われている。(パリ・安倍雅信)
人権諮問委員会が調査報告書
国民の7割「多過ぎる」
仏内務省が4月10日に明らかにした2013年度の外国人滞在者についての統計によると、13年に滞在ビザの申請件数は251万4994件だった。この数字は前年の12年に比べ増加しただけでなく、2000年以降最高の水準となった。
内訳を見ると学生ビザ申請者は前年度比7%増で、増加要因は11年の出入国管理法の改正で高いスキルを持つ外国人に対して労働市場をよりオープンにしたためだった。具体的にはフランスの大学や専門学校で高度な知識を習得した上で、フランスで働きたいと考える外国人が増えたことが指摘されている。
これに関連して専門職分野での滞在ビザ申請も前年比11・2%増加し、特に科学者など理系労働者の増加(13・2%増)が指摘されている。また、申請者の多数を占める家族の滞在ビザ申請に関しては、前年比8・4%増でオランド政権が(フランスでの定住を目指す)不法滞在者に対して、ビザを発給した影響も大きいとされている。
フランスでは人道的観点から、労働許可を取得し、一定の所得のある外国人に対しては家族の呼び寄せを認めてきた。サルコジ前政権時代には家族へのビザ発給で定住化してしまう外国人を減らすため、厳しい審査基準が設けられたが、オランド現政権下では緩くなっている。
一方、亡命に関しては13年は6万5894件の申請があり、前年度比7・2%増だった。ただ欧州連合(EU)内では、フランスの数字は、ドイツへの亡命希望者の12万7000人に比べると少ない。ドイツは欧州最大の亡命受け入れ国になっている。
フランスへの亡命希望者で近年最も多いのはコソボ人、続いてロシア人、コンゴ民主共和国人と続く。難民や無国籍者の保護のためのフランスの事務所(OFPRA)の公表した申請者数は前年比1・5%増、亡命に関する国内裁判所(NADC)が扱った事例は前年度比8%増加したとしている。
国籍取得者に関しても増加しており、13年の国籍取得者は5万2207人で前年の4万6003人に比べ、13・5%増だった。その一方で、国籍を捨てる人や違法行為による国籍剥奪者も増えており、内務省の文書ではトータルで前年度比1・5%増にしているが、正確な数値とは言えないとも書いている。
EU内の英国、ドイツ、フランスといった大国のここ3年間の全体的傾向としては、EU域外からの移民流入数は審査の厳格化などにより減少している。その一方でギリシャの財政危機に端を発した経済危機で、ギリシャ、スペイン、イタリアなど経済不振の国から経済の堅調なドイツなどに移動する人が増えている。
さらに、域内の人の移動の自由化により、経済的に貧しいポーランドなど旧中・東欧諸国から大国に移動する流れは、多少の変動はあるものの域外からの労働人口流入に比べ人口移動の主流となりつつある。
フランスでは今年4月人権諮問委員会(CNCDH)が「人種差別・ユダヤ人排斥主義・排外主義の対策」に関する報告書を政府に提出した。同報告書では移民がフランス社会の不安要因と考える国民の割合が調査開始以来、最高になるなど移民への嫌悪感の高まりが指摘されている。
同報告書は昨年12月に行われた調査に基づいて発表されたものだが、移民を経済や社会の不安要因として挙げた人が全体の16%(前回調査より6ポイントの大幅増)だった。さらに「フランスには移民が多過ぎる」と回答した人は全体の74%に上った。また「移民は社会的保護を受けるためだけにフランスへ来る」との回答も77%に達した。
いずれも過去最高の上昇を見せており、特に非定住移動民族のロマやイスラム教徒への嫌悪感が高まっていることが指摘されている。ロマは治安を悪化させ、イスラム教徒はフランスの社会保障の恩恵だけを一方的に受けながら、治安悪化にも影響を与えていると考えるフランス人が増えているとされる。
フランスは移民が全人口に占める割合がドイツや英国よりは少ない一方、北アフリカ・マグレブ諸国からのアラブ系移民が圧倒的な割合を占め、さらに彼らが2世・3世の時代を迎えているため、フランス国籍所持者として数えられている。つまり、既に移民としては数えられていないが背景はアラブ系移民という場合が増えている。
彼らはフランスが実施する同化政策には従わず、イスラムの価値観やライフスタイルを維持しつつ、フランスに定住している。近年、このような問題はEU全体の課題として浮上しており、各国で同化政策強化が行われているが、宗教的価値観が根底にあるために目立った効果を上げていない。
例えば、大半がカトリック組織によって運営されるフランスの私立初等・中等教育機関でさえ、イスラム教徒の生徒が増えている実態がある。パリ東郊外のノジャンにあるカトリックの私立中学のルブルトン校長は「希望者が出てくれば入学を拒否する理由はないし、彼らの価値観を尊重するしかない」と語り、彼らの価値観を変えることは不可能としている。
移民や外国人の急増は、フランス市民が実際に肌で感じていることだけに、不安や嫌悪感の広がりは深刻と言える。右派のFNへの支持が拡大している理由もそこにある。支持率低迷が続くオランド政権は、3月の統一地方選挙の大敗で、移民に対して厳しいバルス前内相を首相に指名した。
バルス氏は社会党内のサルコジと言われ、党内では右寄りで、これまでもロマの排除のために厳しい措置を取ってきた。だが、党内からは批判の声もあり、特に党内左派のトビラ法相との対立が何度も表面化しており、政権運営の妨げになっている。現政権の支持率回復の鍵を握るバルス内相の手腕が注目されている。