【上昇気流】労働災害と人間の行動原理
那須サファリパーク(栃木県那須町)で開園準備をしていた20代の女性飼育員が、本来は獣舎内にいるはずのトラに襲われ、右手首を欠損する重傷を負った。助けようと駆け付けた2人も相次いでかまれるという痛ましい事故だ。
襲ったのは10歳雄のベンガルトラで、体長約2㍍、体重150~160㌔。女性飼育員と通路で鉢合わせしたとみられる。
どんな職種でも労働災害には作業者が絡んでいるので、そこには必ず人間の行動原理が作用している。その第一は「仕事の目的は何か(作業目的)の徹底」(長町三生著『安全管理の人間工学』)だ。
この園では、営業終了後にトラが柵のある獣舎に入ったかどうかの確認を必ず行うとしている。しかし事故前日はそれを怠り、翌朝の再確認もなかったようだ。猛獣を扱っているという特殊な作業目的についての自覚が身に付いていなかった。
仕事の心構えということでは筆者にも心当たりがある。今はほとんど自動化したが、以前は印刷機を扱う作業員が機械に手を挟まれる事故が時々あった。
事故はかなり緊張を強いられる多色刷りの大型機械より、むしろ空いた時間に作業を行う単色刷りの時に見られた。印刷物を仕上げるという目的は同じだが、より単純で単調な作業だと気が緩みうっかりしてしまう。
作業の手順や危険なポイントの理解と注意、その繰り返しに伴う精神的な疲労をいかに軽減するかといったことが大切だ。