安哲秀氏とは何者か
政権交代目指し保守と手を組む
韓国で選挙のたびに姿を現す人物がいる。安哲秀(アンチョルス)氏(58)だ。元ソウル大教授でベンチャー企業の創業者でもあり、過去2回大統領選に出馬したこともある。現在は国会議員ではないが、野党「国民の党」(国会議席3)の代表を務める。
韓国は来年3月に大統領選を迎える。その前哨戦ともいえるソウルと釜山の市長選が4月に予定されており、安哲秀氏はソウル市長に立候補を表明。またぞろ政治の表舞台に出てきた。
若者に絶大な人気があり、保守と進歩(左派)、地域対立の枠外で独自の立ち位置を占めて、最近の世論調査では20%の支持率でトップを走っている。だが、慶尚道と全羅道の地域感情、保守と左派の思想対立といった韓国政治に流れる二者対立構図に馴(な)らされた目からは、人気ばかりが先行していて、安氏の正体が見えづらい。
新東亜2月号が安氏のインタビューを載せた。安氏は「野党の一本化」をすべきだと主張する。だが自分を統一候補にせよ、というわけではない。「誰が勝つかが重要ではなく、野党の勝利が重要」と説く。相手は議席数103の野党第1党「国民の力」で、手駒3議席しかない安氏はとんでもない相撲を取っているわけだ。
インタビューで安氏は繰り返し「政権交代しなければ、国が変わらない」と強調している。現在の文在寅(ムンジェイン)政権のアンチを明確にしているわけだ。国民の力の前身をたどれば、朴槿恵(パククネ)大統領を支えたハンナラ党に連なる。代表的保守勢力で、ここと手を握ろうとすれば、親文派の鉄板支持層である国民の30%を“敵に回す”ことになる。
だが、対立構図の埒外(らちがい)に立つ安氏ならば、国民の力を推さない層や与党支持層の周辺からもなにがしかの票を取ってこられる、という目算があり、「野党が勝てる候補」を選ぼうとすれば、論理的帰結として、自身が野党統一候補になるとの読みがあることは見え見えだ。
しかし、かつては大統領の椅子を目指し、現在も政党の代表を務める安氏が、それでは首都の市長に収まれば、その職を全うするのか、との疑問が湧く。出馬表明時には大統領選には出ないと明確にしたが、政治家の言葉ほど不確かなものはない。支持者の強い要請とか、状況が変わったとかの理由で前言を翻さないとも限らない。何しろ目指すは「政権交代」なのだから。
相変わらず明確なイメージが伝わってこない安氏である。
(編集委員)