武蔵野の近くの高級マンションの前庭で、…


 武蔵野の近くの高級マンションの前庭で、枝のような小さな木は今年も丸い小さな紫色の玉をいっぱいにつけていた。密な草木の中で柔らかな緑葉とその付け根にある実は、よく見ないと気付かない。

 散歩中に見つけ、毎年その小さな玉を見て小さな秋を感じる楽しみができた。新型コロナウイルス禍の今年も、変わりなく小さな玉を見つけホッとした。それが「紫式部」だと教えてくれたのは、生け花の心得のある老妻である。

 平安の昔、宮中世界を描いた作者の名が付いているのは、形も色も高貴で品があるからであろう。澄み渡った青空の下で、さまざまな秋の色が楽しめる季節である。深まる秋の気配は、自然を明るく豊かに彩る中で少しの寂しさも帯びる。

 庭や部屋を秋色(しゅうしょく)に染める紫や青色の花は、春の花とは違って華やかな中にも陰を帯び深みのある大人の色で秋を演出してくれる。キキョウやリンドウの青、ホトトギスや平安時代から薬用、鑑賞用に親しまれてきた紫苑(しおん)(別名・十五夜草)の紫、小さな赤紫色の実をつける吾亦紅(われもこう)などに秋の風雅を楽しむ人もおられよう。

 今月の二十四節気は、北の地では氷が見られるとされる8日の「寒露」から、23日の「霜降(そうこう)」へと湿り気も露から霜に形を変えていく。

 「晩秋の王花」菊の季節や遠くから紅葉の便りが届くのも、もうすぐだろう。<実むらさき老いて見えくるものあまた> 吉野義子(よしこ)。<ひとめぐりして秋色をいふばかり> 石田郷子(きょうこ)。