マスク、手洗い、うがいの励行に間合い、…
マスク、手洗い、うがいの励行に間合い、つまりソーシャルディスタンス(社会的距離)を取る新型コロナウイルス対策の中で開催された大相撲秋場所。これに両横綱不在が混戦を呼び込んだ。感染防止のため、十分なぶつかり稽古もままならず、よその部屋で力試しする出稽古も禁じられた。
なまけなくても力士たちにとって稽古不足になりがちな環境で迎えた本場所であった。本命の両大関のうち朝乃山が初日から3連敗で躓(つまず)き、貴景勝も中日までに2敗して抜け出せなかった。
誰が優勝するか分からない、文字通り混戦場所を格段に面白くしたのは、新入幕の翔猿(とびざる)だった。やはり中日まで2敗で並び、しこ名の通り敏捷(びんしょう)な動きで上位陣に食らいついて白星を重ねた。106年ぶりの新入幕優勝への期待を千秋楽までつないだのは特筆されていい。
混戦場所を制して初優勝を果たしたのは関脇正代(しょうだい)である。千秋楽の土俵際に追い詰められたが、土壇場の粘りで翔猿を突き落としに下し、場所後の大関も手繰り寄せた。
筋力トレーニングを重点的に行い、特に下半身を鍛えて馬力アップを図ってきた。これがプレッシャーに弱いと言われたネガティブ思考を吹き飛ばし、終盤戦での両大関撃破につながった。
28歳の大関昇進は遅咲きと言われるが、格闘技の体力ピークは30歳あたりで、むしろこれから。大相撲は両大関に追い付いた正代に、2回優勝の御嶽海と横綱を狙える楽しみな逸材がそろった。