コロナ感染差別の防止 「心の社会的距離」が課題に

《 記 者 の 視 点 》

 弊紙3日付社会面に、「地方移住 相談が活況」「新型コロナ機に誘致に熱」の見出しで、「都市部から地方への移住に関心が高まっている」という記事が載った。

 人口の少ない地方は「3密」を避けることができる。テレワークの普及によって、田舎でも仕事ができるようになる一方、人と人との強い結び付きによって生まれる暮らしの魅力が見直されているのだろう。東北地方から東京に出て来ている中学の同級生たちと今も交流を続け、そのたびに故郷の良さを語り合っている筆者としてはうれしい動きだ。

 半面、記事にあった「都市部からの下見などを懸念する地元住民もいるなどジレンマも抱える」という部分に目が留まり気が重くなった。故郷に住む知人から、コロナ感染者へのすさまじい差別について聞き、昔ながらの田舎の排他性を思い知らされたばかりだったからだ。近隣の自治体で、第1号感染者となったばかりに家庭崩壊や閉店に追い込まれた事例があるというのだ。

 プライバシーに関わる問題なので詳細は省略するが、地方では、人間関係が濃いだけに、感染者(家族も含めて)の名前や職業などはすぐ口づてに広まってしまう。自治体の第1号感染者となれば、都会では想像できないくらいの排他の視線に曝(さら)される。客商売をしていれば、廃業もある。

 また、男性感染者の「濃厚接触者」として、女性がPCR検査を受けるだけで男女関係を勘繰られ、既婚者なら離婚に発展することもある。筆者は5月16日付の当欄でも「コロナ感染と差別」をテーマに、「濃厚接触という言葉を聞いて、妙なことを想像する人間がいたとしても不思議ではない」と書いたが、それが現実に起きているのだ。

 県のホームページで、県知事は「患者や家族など関係者に対する度重なる電話や、退院する患者の監視行為が行われていると聞いています。このような嫌がらせと取られる行為は絶対にやめてくださりますよう、改めてお願い申し上げます」と呼び掛けたが、効果はない。

 感染者に対する嫌がらせは全国的に起きており、引っ越しを余儀なくされている人もいる。もちろん、露骨な差別は一部だが、人と人の結び付きが本物なら、心強い支援者が多く現れるはず。しかし、そうはならない。

 では、感染症で“村八分”のような事態が起きるのを防ぐにはどうしたらいいのか。まずは「科学的なリテラシー」を向上させることが課題となろう。

 新型コロナは誰もが感染する可能性があり、たとえ感染したとしても風邪のような症状で治まる。だから、持病を持つ人や高齢者を除けば3密を避けて暮らせばいいのであり、感染症そのものが地域に混乱をもたらすようなことはまずない。その認識を広める努力が必要だ。これは都会に暮らす人にも言える。

 もう一つは、田舎に暮らす人たち特有の課題として、他者のプライバシーに踏み込まないようにする「心のソーシャルディスタンス」(社会的距離)の保持の習慣化を挙げたい。これは人の内面に関わるから大変難しい課題だが、都会からの移住者が増えることで起きる地方の変化として期待したい。

 社会部長 森田 清策