国家緊急事態宣言 旧民主幹部は堂々と必要性訴えよ
《 記 者 の 視 点 》
中国発の新型コロナウイルスは現在、欧州を中心に猛威を振るっている。イタリアの死者数は19日、中国本土を上回る3405人となり、感染者数も前日から過去最高の5322人増加。スペインやフランス、ドイツでも爆発的な感染拡大(オーバーシュート)が起こっており、マクロン仏大統領は17日のテレビ演説で罰則付きの厳しい外出制限を指示し、「われわれは戦争状態にある。敵は見えないが、前進している」と訴えた。
人の移動や集合が制限されると、経済への影響も甚大だ。人と共にカネは動くので、長引けば実体経済が瀕死(ひんし)に陥る。西村経済再生担当相が19日、新型コロナ感染の経済への影響について、「リーマンショック並みか、それ以上になるかもしれない」と展望したのは当然だ。
国民の生命と財産を守ることは国の最小限の任務だ。その双方が危機に晒(さら)される状況は、国家の緊急事態に他ならない。日本は現在、爆発的な感染拡大には至らず、何とか持ちこたえている。政府や専門家会議をはじめ、都道府県など各自治体、医療機関、企業、国民各自の自制的な努力の賜物(たまもの)だろう。
ただこれらの努力も有機的になされないと効力が半減する。その点で見逃せないのが、新型インフルエンザや未知の感染症(新感染症)に対し、「国家の危機管理」としての対応を定めた「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」だ。これは民主党・野田佳彦第1次改造内閣時代の平成24(2012)年5月に制定された新型インフルエンザ特措法(以下、特措法)に基づき、安倍晋三首相再登板後の13年6月に作成されたものだ。
感染拡大を抑制して国民の生命と健康を保護し、国民生活と経済への影響を最小にするため、発生段階(未発生期→海外発生期→国内発生初期→国内感染期→小康期)ごとに、政府対策本部、都道府県、医療機関、一般事業者、国民などの行動が細かく記されている。
政府のこれまでの対応は、行動計画に示された①流行のピークを遅らせ、医療体制の整備やワクチン製造のための時間を確保②患者数等が医療提供のキャパシティーを超えないようにする③重症者数や死亡者数を減らす―ことを目的に行われている。民主党政権が作った特措法が新型コロナ対策に大きな役割を果たしているわけだ。
だから安倍首相が進めた特措法の対象に新型コロナウイルスを追加する法改正に、民主党の流れを汲(く)む立憲民主、国民民主両党が協力するのは当然だ。しかし、改正に当たり立憲民主の党内や支持層から「私権を制限する緊急事態宣言」への批判が高まったとき、制定時に防災担当相だった中川正春常任顧問や主要閣僚だった枝野幸男代表、安住淳国対委員長が緊急事態宣言の意義を積極的に説得した形跡は見られない。
立憲、国民両党が本当に政権政党を目指すなら、自分たちが与党時代に推進した緊急事態宣言の必要性くらいは堂々と主張できるはずだと思うのだが…。
政治部長 武田 滋樹