金正恩氏、トランプ氏手玉に時間稼ぎか

 来月末頃の開催が発表された2回目の米朝首脳会談。史上初となった昨年6月の会談以降、膠着(こうちゃく)状態にある北朝鮮非核化を進展させられるかが最大の焦点だが、北朝鮮側には表面的であったとしても外交成果を急ぐトランプ米大統領の足元を見て、完全非核化にはほど遠い措置で制裁緩和などの見返りを得ようという思惑も見え隠れする。
(ソウル・上田勇実)

米朝再会談 成果に懐疑論
軍事攻撃回避へ3、4回目も

 停滞していた米朝対話が再開され、金正恩朝鮮労働党委員長の側近、金英哲党副委員長兼統一戦線部長が訪米し米朝首脳の再会談で合意にこぎ付けられたのは、国際社会が繰り返し求める北朝鮮のCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)にメドが付いたからではなく、双方とも非核化交渉が国内事情で必要になったからとみられる。

 北朝鮮の場合、それは「核を保有したままの経済再建」であり、そのための時間稼ぎだ。

 韓国大統領府の統一外交安保特別補佐官を務める文正仁・延世大学教授は先日、再会談で北朝鮮が切ってくるカードは「寧辺核施設と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の廃棄」と指摘した。

 寧辺核施設には建物だけで400棟近くがあると言われ、廃棄すればインパクトが強い。「火星15」など米本土を射程に置くICBMの廃棄は米への核攻撃を無力化させたとアピールできる。その見返りに北朝鮮は米国に、外貨獲得に向けた経済制裁の緩和や体制保証を視野に入れた朝鮮戦争(1950~53年)の終戦宣言を求めてくる公算が大きい。

 北朝鮮は「非核化プロセスを短く切り、そのたびに米国と取引するのが有利と判断している」(元韓国政府高官)ようだ。そのためなら今後も「3回目、4回目の米朝首脳会談を推進する可能性が高い」(南成旭・韓国高麗大学教授)。米国からの軍事攻撃を回避し続け、核保有国を既成事実化させて中国の後ろ盾と北朝鮮に融和的な韓国・文在寅政権の“理解”などを得ながら制裁緩和に道を開くのが狙いとみられる。

 一方、トランプ米政権が重要視するのは安全保障上の「米国第一主義」だ。メキシコとの国境沿いの壁建設をめぐる予算問題や長期化する政府機関閉鎖などで政権批判が強まる中、北朝鮮の「非核化演出」を外交成果としてアピールする構えだ。

 米本土を射程に置くICBMさえ凍結されれば、国民に当面の北朝鮮による軍事的危機は回避できたと説明できる。トランプ氏としては「ICBMの脅威を除去するという初期目標さえ達成できれば、最終目標である北完全非核化は急ぐ必要がない」(金泰宇・元韓国統一研究院長)わけだ。

 実際、「米国では北朝鮮の完全な核廃棄に対する希望がなくなり、ICBM除去を交渉目標にしようとするムードが感じられる」(韓国紙朝鮮日報)という。

 同紙はその例として、米国防総省が中長期戦略「ミサイル防衛見直し」の中で北朝鮮のICBMを「並外れた脅威」と規定し、トランプ氏が同省での演説で「米国国民をあらゆる種類のミサイル攻撃から守る」と強調したこと、下院外交委員会のアジア太平洋委員長に内定した民主党のシャーマン議員が「金正恩が全ての核兵器を放棄するとは思わない。高度に監視された中で制限された核兵器だけを保有し、ミサイル計画を凍結するなら米国は一層安全になる」と述べたことを挙げている。

 非核化の行方が見通せない上、米朝双方のお家事情が色濃く反映されたためか、米朝再会談のニュースが流れても前回のような熱気と興奮は感じられない。再会談の現地取材を命じられたある韓国紙外交安保専門記者は「トランプ氏を手玉に取った金正恩による非核化詐欺の現場検証をしに行くようなもの」とつぶやいた。