慰安婦合意検証、前政権への「報復」だが国際社会の信用失う
解説
日韓「慰安婦」合意の検証を進めてきた韓国政府の作業部会が朴槿恵前政権の交渉姿勢に問題があったと結論付けたことで、日韓が共に未来志向に踏み出そうという合意の精神は色褪(あ)せる恐れが出てきた。政治決着を目指したこの問題が再び火種となれば、元のもくあみだ。
検証結果は被害者である元慰安婦に事前の説明や了承がなく、国民の同意もなかったことを問題視した。朴前政権の青瓦台(大統領府)が担当省庁との疎通を欠いたまま独断で進めたとも指摘した。韓国政府はまだ合意の破棄も交渉見直しにも言及していないが、文在寅大統領は合意見直しを公言してきただけに、今回の検証結果はその布石ではないのかという疑いを抱かせている。
例えプロセスに不十分な点があったとしてもそれは国内問題であり、相手との合意を蒸し返す理由にはならない。韓国社会では自分の事情を訴えて相手に理解してもらおうとする場面をよく目にするが、国際社会では単なる甘えでしかなく、通用しない。
安倍晋三首相の開会式出席がかかる来年2月の平昌冬季五輪が終われば、韓国政府は合意に対する立場を明らかにするだろう。仮に再交渉を日本に求めたり、合意破棄を宣言した場合、韓国は日本の信頼を大きく失うだろう。
文政権は国政介入事件を招いた朴前政権を「積弊」と称し、その「清算」の名の下で政治報復に余念がない。合意検証もその一環とする見方が強い。問題は、北朝鮮の核・ミサイル脅威や中国の覇権主義など安全保障上の危機に連携して対応しなければならない時、日韓の間に大きな溝ができてしまうことだ。
(編集委員・上田勇実)