迎撃ミサイル配備に現実味 北の長距離弾道ミサイル発射で韓国


 北朝鮮が地球観測衛星の打ち上げと称し事実上の長距離弾道ミサイルを発射し、韓国では迎撃態勢の強化へ終末高高度防衛(THAAD=サード)ミサイルの配備が現実味を帯び始めている。以前は配備に難色を示す中国への配慮が強かったが、先月の核実験もあり、安全保障上、不可欠だとする主張が目立つようになった。(ソウル・上田勇実)

防衛能力「日本に10年以上遅れ」

米との公式協議発表

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米陸軍が開発したTHAADミサイル( Wikimedia Commons /米国防総省ミサイル防衛局)

 韓国紙文化日報はこのほど青瓦台(韓国大統領府)関係者の話として、韓国政府が韓半島(韓国・北朝鮮)までを探知距離とするサードミサイル導入を検討中だと報じた。

 また米紙ウォールストリート・ジャーナルは、米高位当局者の発言を引用し、米韓がサードの韓国導入で最終調整に入ったと報じた。

 韓国国防省報道官は米国からサード導入の要請はないとしながらも、「在韓米軍にサードが配備された場合、わが国の安保と国防に役立つ」と述べた。

 そして昨日、北朝鮮が「地球観測衛星の打ち上げ」と称する事実上の長距離弾道ミサイル発射を強行したことを受け、ついに米韓国防当局は「サードの在韓米軍配備を公式に協議することにした」と発表した。

 サードは飛来してくる弾道ミサイルが大気圏に再進入する最終航路段階の上空50㌔~150㌔の高さでこれを撃ち落とす迎撃システム。米ロッキードマーティン社が製造、米国ではすでに2008年から実戦配備されている。

 韓国の場合、配備済みの既存のパトリオットミサイル(PAC2、3)はこれより射高が低い下層・中層段階を想定したもので、これでは高速で飛来してくる弾道ミサイルを撃ち落とすには迎撃可能な時間が短すぎるなどの理由で難しく、また迎撃による地上落下物の被害も予想されるため、より高高度の迎撃が求められていた。

 もともと米国によるグローバルミサイル防衛網構築の一環で、2013年に米国防総省を中心にサードの韓国配備が検討され始めた。その後、在韓米軍指令官が北朝鮮の脅威に対抗する上でサードが役立つと発言。これをきっかけにサード配備に関心が集まるようになった。

 韓国が2020年代構築を目指す韓国型ミサイル防衛(KADM)体系は射高が10㌔~30㌔の下層。「北朝鮮が近年、射程の長い弾道ミサイルを高度を高めて発射しているのでこれに対応しなければならない」(李栄学・韓国国防研究院上級研究員)という事情もあったようだ。

 サード導入について韓国政府はこれまで「スリー・ノー(3NO)」を繰り返してきた。「米国から配備を要請されたことはない」ので「米国と協議をしていない」し、従って「決まったことは何もない」というものだ。

 だが、実際には米韓両国は在韓米軍へのサード導入をめぐり費用負担の方法や時期を模索中ともいわれてきた。これに対しミサイルと同時に展開されるレーダーは1000㌔以上の探知距離を有するため、自国の軍事施設が多数含まれる中国が幾度となく反発してきた。中国と戦略的な協力関係を強めようと中国傾斜外交を続ける朴槿恵政権にとって、サード導入は米中の板挟みにあう頭痛の種だった。

 中国がサード導入に反対するのは、米国との軍事バランスが崩れると考えているためだ。「アジア太平洋地域で中国が米国の核先制攻撃に報復する能力がサード導入で失われ、米中間の核抑制力に基づく戦略的バランスが崩れる」(李氏)ことを恐れている。

 しかし、韓国のある国防当局関係者に聞くと「安保上必要と判断すれば、どんなに中国が反対しても導入すべき」との答えが返ってきた。いざという事態を迎えれば中国の顔色をうかがうことはない、というのが本音だ。

 そして先月から今月にかけての北朝鮮による核・ミサイル挑発で、韓国はサード導入の「大義名分」を得たとも言える。

 今回の「衛星」発射予告では日本が早々と破壊措置命令を発令し、迎撃態勢を整えたことも韓国を少なからず刺激している。

 韓国主要紙の一つ東亜日報は社説で「韓国の弾道ミサイル防衛能力は日本より10年以上遅れている。(中略)北がソウルを火の海にするミサイルを発射しても(現在の防衛能力では)やられるしかないという現実にただ呆れるしかない」と嘆いている。